出典:[amazon]母性 (新潮文庫)
『告白』や『白ゆき姫殺人事件』など数々のヒット作で知られる湊かなえ。一度は読んだことのある方も多いのではないでしょうか。また同氏の作品はテレビドラマ、映画、漫画などにもメディアミックスされ、映画版「告白」が2010年度の日本映画興行収入で第7位を獲得するなど、その活躍は多方面に及びます。湊かなえといえば「イヤミスの女王」という呼び名で知られていますが、作品を読んでみると、「イヤミス」作品以外にも魅力溢れる作品を多数執筆しています。そんな湊かなえとはどのような人物なのでしょうか。今回はおすすめ作品を交えながら湊かなえについて解説します。
湊かなえとはどんな人物?
湊かなえとはどのような人物なのでしょうか。生い立ちやエピソードを調べてみると、その生き方には強い意志が感じられました。
生い立ち
湊かなえ(本名・金戸美苗)は、1973年広島県因島市(現尾道市)に二人姉妹の長女として生まれました。実家は柑橘農家を営んでおり、小学校から高校まで因島で過ごしています。読書好きの母の影響により、読書に夢中になった湊かなえは、幼い頃から学校の図書館で借りた江戸川乱歩や赤川次郎の作品を読み漁ったそうです。
また、子供時代から空想好きだったらしく、テレビドラマや物語の続きを自分で自由に創作するのを楽しみとしていました。こうした経験が、湊かなえの豊かな想像力を育んだのかもしれません。
高校卒業後、「関西の大学なら行っても良い」という両親の許可を得て、武庫川女子大学に進学。理系科目が得意だったのと、手先が器用だったことから家政学部被服学科を専攻しています。大学ではサイクリング部に所属し、日本各地を自転車で旅するなど大学生活を謳歌しました。大学では教員免許の他、繊維製品品質管理士の資格を取得しています。
大学卒業後は1年半アパレルメーカーに勤務した湊かなえですが、出勤途中に見た「海外青年協力隊」のポスターがきっかけで、1996年から1998年までの2年間をトンガ王国で過ごしています。トンガ王国では家庭科教師として栄養指導にあたり、現地の栄養事情の改善に務めたそうです。青年海外協力隊の面接試験では、面接官から「フィジーに興味はありませんか?」と問われた湊かなえですが、「トンガでないとだめです」と語気を強め、トンガ行きとなりました。この辺に湊かなえの意志の強さがうかがえますね。
作家デビュー
トンガから帰国後は、淡路島の高校で家庭科の非常勤講師に着任し27歳で結婚。1児を授かり、専業主婦となりますが、やがて「自宅でできることをしたい」という気持ちが芽生え、自作の川柳や脚本を雑誌に投稿し始めます。
2005年には第2回BS-i新人脚本賞の佳作に入選したものの「プロになるのは厳しい」と指摘され、湊かなえは小説家を志します。
その後2007年に執筆した『答えは、昼間の月』で脚光を浴びた湊かなえは、2008年に「聖職者」で見事作家デビューを果たします。そして、翌2009年には「聖職者」を含む『告白』を発表。本作で第6回本屋大賞を受賞し、累計300万部を超える大ヒットとなりました。その後も毎年コンスタントに作品を発表し続け、人気作家として不動の地位を確立しています。
結婚している?
上述したように、トンガ王国からの帰国後、湊かなえは27歳で一般男性と結婚しています。お相手は高校の国語教師をしているそうです。子供が生まれてからは、昼間は専業主婦をこなしながら、夜10時から明け方の4時まで執筆し、子供を幼稚園に送ってから寝るというハードスケジュールだったといいます(少し前のインタビュー記事なので、現在のライフスタイルは変わっていると思います)。
おもな受賞作について
2007年の「聖職者」でのデビュー以来、多くの賞を受賞している湊かなえ。今回はそのなかから、おもに受賞作のみ紹介します。
2005年・・・第2回BS-i新人脚本賞佳作
2007年『答えは、昼間の月』・・・第35回創作ラジオドラマ大賞
同年 「聖職者」・・・第29回小説推理新人賞
2008年『告白』・・・第6回本屋大賞
同年・・・第3回広島文化賞新人賞
2012年『望郷、海の星』・・・第65回日本推理作家協会賞
2016年『ユートピア』・・・第29回山本周五郎賞
この他、2013年、2016年、2018年の3度にわたり直木賞候補に挙がっています。
作品の特徴について
「イヤミスの女王」として知られる湊かなえですが、イヤミス作品以外にもミステリーやどんでんがえし、ヒューマンドラマを描いた作品も執筆しています。「ハッピーエンドにならないのはイヤだ」という方にはヒューマンドラマやミステリーがオススメです。湊かなえは登山が趣味ということもあり、『山女日記』のような自然を舞台にした清々しい作品に触れてみるのも良いでしょう。
また、作品の多くが漫画化や映像化されているのも特徴です。とくに代表作の『告白』や 『白ゆき姫殺人事件』などは映画化でも成功を収め、大きな話題になりました。今年(2022年)11月には「母性」の公開も予定されていますので、そちらも楽しみです。
湊かなえの代表作おすすめ8選
湊かなえのおすすめ作品を紹介します。いつもながら、おすすめ作品は筆者の独断と偏見によるものですので、その旨ご了承くだされば幸いです。
告白
小説推理新人賞を受賞した「聖職者」を含む、湊かなえのデビュー作です。この作品により湊かなえは、2008年度の「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位、本屋大賞4位を獲得しています。2010年には女優・松たか子主演で映画化され、2010年度の映画興行収入第7位に輝いています。
「我が子を校内で亡くした中学校の女教師のホームルームでの告白から始まる」本作は、物語を追うごとに手に汗握る展開となり、一気読み間違いナシの傑作です。「イヤミスの女王」の伝説はこの作品から始まりました。
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白ゆき姫殺人事件
2011年5月から2012年1月にかけて、「小説すばる」に連載された長編小説です。2012年に出版され、のちに漫画化・映画化されています。2013年には湊かなえ初の電子書籍として出版されました。
「白ゆき」石鹸を販売する化粧品会社に勤める三木典子が、焼死体で発見されるところから物語が始まります。旧友から連絡を受け、事件に興味を持ったフリーのグルメライター赤星雄治は取材を開始しますが、インターネットやSNSを通じて事件は思わぬ展開に・・・。
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山女日記(やまおんなにっき)
2014年に刊行された連作長編小説です。こちらは「イヤミス」作品とは異なり、純粋に「山を愛する人」の物語です。作者自身も登山を趣味としており、作品では、山々の情景や登山に挑む女性のいきいきとした姿が描かれています。湊かなえならではの、細やかな心理描写も魅力の1冊です。
妙高山や槍ヶ岳、利尻山など実在する山が登場しますので、登山好きの方はもとより、登山にチャレンジ予定の方にもおすすめの作品です。2016年、2017年、2021年にはNHK-BSプレミアムにてドラマ化されています。
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望郷
2010年から2012年にかけて執筆された連作短編小説です。「みかんの花」「海の星」「夢の国」「雲の糸」「石の十字架」「光の航路」の6編が収録されています。白綱島(しらつなじま)を舞台に、島で生活する人々の間で起きる事件や、島から出ていった人の物語など、さまざまな人間ドラマが描かれています。
ミステリー風の作品も収録されていますが「イヤミス」は抑えめなので、安心して読める作品です。作中の舞台となっている白綱島は、作者が育った広島県の因島(いんのしま)がモデルとされています。
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少女
2009年、『告白』に次ぐ2作目として発表された書き下ろし長編小説です。ミステリー的要素は強くありませんが、ラストの伏線回収にアッと驚かされます。
高校2年の夏休み前、転校生の紫織から「親友の自殺を目撃した」という話を聞いた由紀と敦子。「自分も人の死がみたい」と、2人はそれぞれ小児病棟と老人ホームのボランティアに参加します。当初の好奇心とは反対に、命の尊さやお互いの大切さを知りますが・・・。
青春小説かと思いきや、湊かなえの「イヤミス」要素が全開の作品ですので、苦手な方はご注意を。
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リバース
2013年から2014年に雑誌「現代小説」に連載された作品です。2015年に刊行され、第37回吉川英治新人文学賞の候補となりました。2007年の「聖職者」でのデビュー以来、初の男性が主人公の作品として話題となりました。また、作品の結末は、編集者からお題を出されて執筆されたそうです。2017年には作者自身の脚本によりドラマ化されています。
主人公の深瀬和久はコーヒー好きの平凡なサラリーマン。ある日、行きつけのコーヒー店「クローバー・コーヒー」で越智美穂子と出会った深瀬は、やがて恋仲になります。初めは穏やかで幸せな日々を送る2人でしたが、美穂子の職場に「告発文」が送られたことで事態は急変(リバース)します。
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Nのために
2010年に発表されたミステリー作品です。2014年にはテレビドラマ化もされています。超高層マンション「スカイローズガーデン」の48階で殺人事件が発生。現場に居合わせた杉下・成瀬・安藤・西崎の4人がそれぞれの視点で証言を始めます。
作品は5章構成となっており、各章の文末には登場人物の10年後が描かれています。タイトルにある「N」とは一体何をさすのか、そして殺人事件の真相とは・・・。人間が抱える闇と愛をテーマとした湊かなえ渾身の1作です。
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花の鎖
雑誌「別冊文藝春秋」にて、2010年1月号から11月号にかけて連載された長編小説です。
美雪・紗月・梨花の3人の女性を主人公に、それぞれ「雪」「月」「花」の3つのパートで構成されています。両親に先立たれ祖母と暮らす梨花、伯父が経営する建設会社の同僚と結婚した美雪、絵画講師をしながら和菓子店でアルバイトをする紗月。まったく繋がりが無いように見える3人ですが、3人は「K」という謎の人物を通じて影で繋がっているのでした。
時代を超えた3人の女性の共通点と、謎の人物「K」の正体とは・・・。「イヤミス」ではない湊かなえ作品を読みたい人にオススメです。
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まとめ
今回は湊かなえについて解説しました。その生い立ちや人柄を見てみると、「イヤミスの女王」と呼ばれるキャラクターとはほど遠く、実際はアクティブで行動力のある人物だということがわかりました。また、2016年にはベストマザー賞を受賞していることからも、良き妻であり母であることが推察できます。今回紹介された8作品以外にも、読者の好奇心をそそる作品を多く発表していますので、この記事を機会に、ぜひ湊かなえの世界に触れてみてはいかがでしょうか。