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1996年、第1回メフィスト賞受賞により彗星の如く現れた森博嗣。デビュー作『すべてがFになる』が出版されるやいなや、大学助教授・犀川創平と西之園萌絵が難事件に挑む「S&Mシリーズ」は瞬く間に人気を博し、森博嗣は一躍人気作家の仲間入りを果たしました。デビュー以来、驚異的なスピードで作品を発表し続けている森博嗣の作風は、ミステリィ、SF、幻想小説、絵本、エッセイなどジャンルもさまざまです。そんな天才・森博嗣とはどのような人物なのでしょうか。今回はおすすめ代表作を交えながら、森博嗣について解説します。
森博嗣の経歴について
森博嗣とはどのような人物なのでしょうか。多くのエピソードがありますので、ここではそれぞれについて簡単に紹介します。
同人作家などを経験
森博嗣は1957年愛知県に生まれました。実家は建設設計を請け負う工務店を営んでいたそうです。東海中学、東海高校を経て名古屋大学工学部建築学科に進学した森博嗣は、大学院修士課程終了後、三重大学工学部助手に就任します。
キレのある鋭い文章に定評のある森博嗣ですが、高校時代から文章やイラストを同人誌で発表するなど、早くから創作活動に取り組みます(イラストのタッチは森博嗣いわく、尊敬する萩尾望都氏に限りなく近いそうです)。
大学進学後は仲間たちと漫画研究会を設立。「森むく」のペンネームで活動し、同人誌即売会「コミック・カーニバル」を運営するなど、東海地方の同人業界で人気を博します。
『すべてがFになる』でデビュー
1995年、大学教員を続ける傍ら「お小遣い稼ぎのため」に書いた『冷たい密室と博士たち』(S&Mシリーズ2作目)をメフィストに投稿。これがきっかけで、森博嗣は作家デビューとなります。編集部より次作の執筆を依頼され、4作目の『すべてがFになる』の完成後、メフィスト編集部がメフィスト賞の設立を発表。『すべてがFになる』が第1回メフィスト賞を受賞したことで、森博嗣は正式に作家デビューを果たします。
なお、デビューからおよそ10年間は大学教員と作家の兼業作家でしたが、2005年に大学を退官し、現在は本業作家として活躍しています。
作品の特徴について
デビュー当初は作中に科学的専門用語が多用されていることから「理系ミステリー」と称されていましたが、その後はSF作品、幻想小説、エッセイ、絵本、詩集などさまざまなジャンルの作品を執筆しています。
シリーズ作品も多く執筆しており「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」をはじめ、現在まで10シリーズ以上の作品を発表しています。各シリーズで関連している作品も多く、細かい設定や世界観を紐解くのも森作品を読む上での楽しみの一つです。また作中のウィットに富んだ会話や「意味なしジョーク」といった森博嗣ならではのシュールさも、作品の特徴といえるでしょう。
作品については、本人いわく「タイトルが決まったら90%は仕事を終えた気分になる」そうで、作品タイトルにこだわりがあるのも特徴です。また、それぞれの作品の冒頭には『不思議の国のアリス』やルナールの『博物誌』といった有名作品から引用が引かれることが多く、引用部分が作品のテーマを暗示するという手法を取っています。
小説の他、エッセイなどの執筆も多く、趣味の鉄道模型や飛行機模型、愛車の話といった趣味(を超えた)の分野でも、森博嗣の才能を垣間見ることができます。
速筆としても有名
森博嗣は作家のなかでも特に速筆として有名です。そのスピードは驚異的で、あるインタビューで執筆ペースについて問われた際、「1時間に6000文字執筆し、小説はやや速く、エッセイはやや遅くなる」と語っています。また、小説の仕事は1日1時間と決めており、コンスタントに計画通り進めていく執筆スタイルだそうです。2003年から2008年にかけて毎年20冊以上(文庫化含む)の作品を発表していることからも、その執筆スピードの速さが窺えます。
結婚している?
森博嗣の妻はイラストレーターの「ささきすばる」さんです。同人活動時代から知り合いだったようで、1982年に結婚しています。森博嗣のデビュー後は挿絵を担当したり、共著による絵本も出版しています。また、森博嗣のブログにも「すばる氏」として度々登場することでも有名です。森博嗣の短編集『地球儀のスライス』のイラストはささきすばるさんが担当しています。
学問上の業績も多数
現在は人気作家として知られる森博嗣ですが、本来の専門分野である工学分野においても多くの賞を受賞しています。専門は主にコンクリートなどの建築材料に関するもので、1988年に第16回セメント協会論文賞、1989年には日本建築学会東海賞、日本建築学会奨励賞、さらに1990年、日本コンクリート工学協会賞、日本材料学会論文賞を受賞するなど、研究分野でも多くの業績を残しています。
また、パソコン通信の懸賞問題として出された「無重力状態での紙飛行機の挙動」を理論的に的中させたことで話題になりました。
おすすめ代表作8選
森博嗣のおすすめ代表作を紹介します。あまりに作品が多いので、表記のタイトルを含む「シリーズ」としてご理解いただければ幸いです。
すべてがFになる(S&Mシリーズ)
第1回メフィスト賞を受賞した森博嗣のデビュー作です。本作はアニメ化およびテレビドラマ化もされているので、ご存知の方も多いと思います。発表当初はシリーズ第4作目として執筆されましたが、編集社の意向により本作がデビュー作となりました。大学助教授・犀川創平と西之園萌絵の2人の主人公が、超絶的頭脳により数々の難事件に挑みます。シリーズ全10作はどの作品も読み応え十分です。
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黒猫の三角(Vシリーズ)
森博嗣の推理シリーズ第2弾です。瀬在丸紅子、保呂草潤平、小鳥遊練無、香具山紫子といった個性豊かなキャラクターが登場します。本シリーズは保呂草による事件の回想という形で展開し、瀬在丸紅子が探偵役として事件を解決します。こちらも全10作のシリーズで、全ての作品において「天才」がテーマとなっています。個人的には3作目『夢・出会い・魔性』と6作目の『恋恋恋歩の演習』が秀逸だと思っています。また本シリーズは「S&Mシリーズ」と密接に関連しており、2シリーズの関係性も興味深いところです。
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スカイ・クロラ(スカイ・クロラシリーズ)
上記2シリーズとは作風が異なり、民間軍事会社の戦闘機パイロット・函南優一を主人公としたシリーズです。森博嗣自身が「自分の本質にもっとも近い作品」と語り、ファンの間でも最高傑作シリーズと称されています。シリーズは短編集を含め全6巻が刊行され、2008年には押井守監督によるアニメーション映画も制作されました。
戦闘機パイロットが活躍する世界観でありながら、静寂に満ちた詩的な物語です。
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女王の百年密室(百年シリーズ)
2113年という近未来を舞台としたSFミステリー小説です。SF的要素を散りばめながらも、本作はタイトルの通り「密室」が登場する本格推理小説でもあります。
主人公のサエバ・ミチルとヒューマノイドのロイディは、とある老人にの案内に導かれ、森の中の宮殿にたどり着きます。そこはルナティック・シティと名付けられており、周囲を高い壁で囲まれ、外界から隔離された不思議な場所でした。一見すると楽園のようにも見える都市ですが、そこである殺人事件が発生します・・・。
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Φは壊れたね(Gシリーズ)
「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」とも関連するシリーズです。タイトルの全てにギリシャ語が用いられていることから「Gシリーズ」と呼ばれています。主人公・加部谷恵美が語る物語に対して、探偵役の海月及介(くらげ・きゅうすけ)が説明的解釈を加えながら物語が展開します。作中には前2シリーズで登場した犀川創平や西之園萌絵、瀬在丸紅子なども登場するため、あらかじめ2つのシリーズを読んでおくと、ストーリーをより一層楽しめます。
しかし森博嗣自身は「どの作品から読んでも良いように書いている」と語っていますので、このシリーズから読むのもアリかもしれません。
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100人の森博嗣
小説だけではなく、多くのエッセイを執筆している森博嗣。本作は自身が発表したエッセイを集めたエッセイ集です。このエッセイ集は5つのセクションに分かれており、それぞれに以下のタイトルが付けられています。
1、森語り
2、森読書
3、森人脈
4、森好み
5、森考え
少し前のエッセイ集ですが、森博嗣の完成や考察が詰まったとても興味深い作品となっています。森博嗣が尊敬してやまない漫画家・萩尾望都に対する熱い思いは一読の価値ありです。
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小説家という職業
森博嗣の仕事論とも言うべき一冊です。小説に対する考えや、小説家になるためにはどうしたら良いのか、小説家の心得などが森博嗣独特の視点で語られます。小説家を目指している方にとって、一度は読む価値のある作品かもしれません。
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「やりがいのある仕事」という幻想
こちらも森博嗣が語る仕事論です。一般的に人は「やりがいのある仕事」を求めて社会に出ます。しかし森博嗣はそこに異論を唱えます。仕事とは何か、お金を稼ぐとはどういうことかなど、森博嗣の知見が端的に表されていますので、仕事に行き詰まりを感じている方はぜひご一読ください。
個人的には「仕事が全面的に楽しいと思っている人なんてほとんどいない。現に休日を取っている」という文にハッとさせられた記憶があります。柔軟な考えを知りたい方にうってつけの一冊です。
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まとめ
今回は天才・森博嗣について解説しました。大学教員から作家に転身した森博嗣ですが、現在は鉄道や飛行機模型、自動車関連の「趣味で大忙し」だそうです。
小説で描かれる「キレの良さ」もさることながら、森博嗣はエッセイやビジネス書(便宜的に表現しています)なども多数執筆しており、それらを読むたびに新たな知見が得られること間違いナシです。まだ森博嗣の作品を読んだことのない方は、今回の記事を参考に、ぜひ森博嗣の作品に触れてみてください。