出典:[audible]からごころは嘘をつく
丸谷才一は、小説、随筆、書評、翻訳、連句など幅広い分野で高い評価を受けている文学者で、2012年に亡くなるまで数多くの作品を残しました。今回は丸谷才一の生涯と性格を物語るエピソードをご紹介します。
丸谷才一の生涯
丸谷才一の87年にわたる生涯を追っていきましょう。
誕生から学生時代
丸谷才一は1925年(大正14年)に山形県鶴岡市で開業医の父のもとに生まれました。中学校まで鶴岡市にいましたが、中学在学中に勤労動員を体験して軍への嫌悪感を募らせてしまいます。それは優等生であったのにもかかわらず校長の期待を無視して上京してしまうほどでした。丸谷は予備校に通ったのち、旧制新潟高等学校文科に入学しました。
しかし1945年3月には学徒動員で山形の歩兵第32連隊に入営し、終戦を青森で迎えることとなります。
終戦後の1947年には東京大学文学部英文科に入学し、現代イギリス文学を研究します。アイルランド出身の小説家ジェイムズ・ジョイスに影響を受け、卒業論文も彼について書きました。
作家活動を始めたころ
1951年から東京都立北園高等学校に講師として勤務していましたが、1952年から作家活動を開始します。篠田一士、菅野昭正、川村二郎らとともに季刊同人雑誌『秩序』を創刊し、第1号に短編小説「歪んだ太陽」を掲載しました。その後も長編小説の『エホバの顔を避けて』を連載したり、グレアム・グリーンの『ブライトン・ロック』を『不良少年』の邦題で翻訳するなど精力的に活動します。
1953年には國學院大学の専任講師、翌年助教授になり、東大時代の同級生で演劇批評家の根村絢子と結婚しました。また修士時代に講師をしていた桐朋学園の非常勤講師にもなります。
教師として勤めながらも、1960年『エホバの顔を避けて』を刊行し、ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』の共訳や、匿名での新聞の連載など作家活動を続けます。そして1967年には『笹まくら』で河出文化賞を受賞し、翌年には『年の残り』で芥川賞を受賞しました。
人気作家になってから晩年
1972年に『たった一人の反乱』を刊行し、谷崎潤一郎賞を受賞し話題となり、1973年には評論『後鳥羽院』を刊行し読売文学賞を受賞します。1978年から日本文藝家協会理事、日本近代文学館理事に就任しました。
ジョイスの研究者でもあるので、1982年にはジョイス生誕100年を記念してダブリンなどを旅行しました。『忠臣蔵とは何か』では国文学者諏訪春雄と論争し野間文芸賞を受賞し、1993年には『女ざかり』がベストセラーとなり、翌年吉永小百合主演で映画化されました。その後も次々に賞を受賞し、2011年に文化勲章を受章します。文化勲章の授与の際に「お礼言上」の役目の際には、用意された原稿を改稿して読み上げたそうです。
丸谷の精力的な活動は続き、2012年には山形県の名誉県民の称号を贈られるなどしましたが、10月7日に体調を崩し入院し、13日に心不全のため87歳で死去しました。
性格を物語るエピソード
文豪と聞くと、とっつきにくいイメージがあるかもしれませんが、丸谷才一は意外にも社交的だったそうです。ここでは丸谷才一の性格を物語るエピソードをご紹介します。
「社交する作家」だった
山崎正和が丸谷才一の死を悼み、振り返った際の話では、2人の間には100回を超える対談が活字になっているという記録があり、丸谷のことを「社交する作家」だと述べています。山崎は対談の精神が丸谷文学の中核にあったのではとも考えており、絶妙な人との距離感や気遣いのある人物だったとのことです。
対談の時間には遅れたこともなければ、酒が好きでも泥酔することはなく、会話を盛り上げる演技力も持ち合わせていたそうです。何を聞かれても当意即妙に答える才能があり博識さが伝わります。また丸谷の小説の登場人物はいずれもしっかりした職業をもち、社会に背を向けるのではなく、社会と関わる人物が描かれていると分析しています。
野球好きのエピソード
丸谷才一は野球好きで、プロ野球は大洋ホエールズ時代からの横浜ベイスターズのファンだったそうです。
村上春樹を絶賛
丸谷才一は村上春樹の才能を早くから見出していたそうで、村上のデビュー作『風の歌を聴け』を群像新人文学賞において褒め称えました。芥川賞の選考においても推薦していたと言われ、村上がノーベル文学賞を受賞した際の祝辞の原稿を用意していたほどだったそうです。
まとめ
丸谷才一は晩年になっても精力的な活動を続け、数多くの作品を出し、数多くの賞を受賞しました。小説から評論など幅広く、対談も得意で、「現代の文豪」と呼ばれていますが、歴史的仮名遣いを用いるなど独特な面もあります。小説の奥深さや評論・随筆の学びになる思考、対談から伝わる頭の回転の早さなど見どころもたくさんあるため、まずは気になった作品から挑戦してみてはいかがでしょうか?