出典:[amazon]The Don Flows Home to the Sea
ミハイル・ショーロホフは、20世紀の旧ソビエト時代を代表するロシアの作家です。作品数はそれほど多くはありませんが、21歳で執筆を始めた長編『静かなドン』がノーベル文学賞を獲得したことで、世界的作家として知られるようになりました。『静かなドン』は本国ロシアにおいて三度映画化され、セルゲイ・ゲーラーシモフ監督による映画は国際的にも高く評価されています。またフランスの哲学者・作家のサルトルもショーロホフの文学的才能を賞賛したと言われています。そこで今回は、ショーロホフの作品の特徴やおすすめ作品を紹介します。
ショーロホフの作品の特徴や評価について
ソビエト社会に生きる人々の生活を描く
中学卒業後、ショーロホフはモスクワに上京し赤衛軍に加わります。そこでは食料調達係や革命委員に携わり、ソビエト共産党の一員として、時には革命の啓蒙活動に従事することもあったそうです。そんななか、小説を書くことを決意したショーロホフの目に映ったのは、革命後の激動の時代を生き抜く人々の暮らしでした。内戦が勃発するなかでの人々の暮らしを描いた『ドン物語』がその一つであり、ショーロホフ最大の代表作である『静かなドン』では、ロシア革命によって翻弄されるコサック社会が表現されています。
その他、家族を失いながらも懸命に生きる老運転手を主人公とした『人間の運命』では、悲惨な運命に耐えながらも、人生を謳歌することの価値を読者に問いかけます。
ソルジェニーツィンとは折り合いが悪かった?
『静かなドン』の成功により世界的作家となったショーロホフでしたが、同じくノーベル文学賞作家のソルジェニーツィンとは生涯馬が合わなかったそうです。それはソルジェニーツィンが『静かなドン』を「盗作である」と非難したことに端を発します。これに対してショーロホフは、(ソルジェニーツィンが)「ソビエト国家の平和政策への不信を生み出そうとしている」と反論。さらにはソルジェニーツィンの『イワン・デニーソヴィチ』に対するレーニン賞受賞に難色を示したとも言われています。
サルトルの評価によりノーベル文学賞を受賞
ソルジェニーツィンの批判とは対照的に、ショーロホフを賞賛したのが哲学者サルトルでした。サルトルは1964年、自身のノーベル文学賞受賞を辞退したことで有名ですが、前年のノーベル文学賞にショーロホフの名前が上がらなかったことに暗に不満を述べたことでも知られています。サルトルの不満がノーベル賞委員会を動かし、ショーロホフは翌年の1965年にノーベル文学賞を受賞しています。サルトルの存在がなければ、ショーロホフのノーベル文学賞は実現しなかったかもしれません
おすすめ代表作3選
ショーロホフの作品にはどのようなものがあるのでしょうか。比較的手に入りやすい作品を紹介します。
人間の運命
1956年に発表された作品です。この作品は、1946年の春にショーロホフが実際にある人物から聞いた実体験を元に執筆されました。初老の運転手である主人公アンドレイ・ソコロフが、第2次世界大戦中に味わった悲惨な経験を語ります。
ドイツ兵の捕虜となり辛酸を舐め、命からがらソビエトに帰国するも、妻と娘2人はすでにこの世を去ったことを知るソコロフ。その後、最後の希望である息子の訃報が届き、すべてに絶望するソコロフでしたが、ある日、ソコロフの前に一人の戦争孤児が現れます。やがて二人はともに暮らすようになり、人生に新しい希望を見出します。
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ひらかれた処女地
ショーロホフの長編小説です。作品は二部構成となっており、第1部は1930年から1932年にかけて執筆され、第2部は1960年に完成しました。作品では1930年代の農村改造を通したソビエトが描かれています。党員労働者として派遣された金属工ダビドフの視点から、当時のソビエトが抱えていた富農・中濃・低農の対立をリアルに描いた傑作です。農業集団化に反対する富農と中濃が暴動を起こしたことで、ダビドフの運命は大きく動き出します。
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静かなドン
1926年から1940年にかけて執筆されたショーロホフをもっとも代表する作品です。この作品が世界で高く評価されたことで、1965年、ショーロホフはノーベル文学賞を受賞しています。第1次世界大戦やロシア革命の激動を懸命に生き抜いた、コサックの人々の力強くも悲しい物語が描かれています。ショーロホフは本作を4巻に分けて出版しています(カッコ内は発表年です)。発表当時、内容が政治的に中立だったことから若干の批判が出ましたが、その壮大で深淵な内容が評価され、1941年にスターリン賞を受賞しています。
第1巻・・・第1次世界大戦前の平和な世界(1926年発表)
第2巻・・・動乱に巻き込まれるコサックたちの日常や体験(1929年)
第3巻・・・ソビエト国内における内戦により、分断されるコサック(1933年)
第4巻・・・内戦末期の様子(1940年)
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まとめ
いかがでしたか?今回はショーロホフの作品の特徴やおすすめ作品を紹介しました。ショーロホフの作品はとても長いですが、じっくりと味わいながら時間をかけて読書をしたい方にはうってつけです。物語の中で描かれる社会背景や人々の暮らしは、現代に生きる私たちにもきっと伝わるものがあると思いますので、お時間のある時にショーロホフの世界を体験してみてはいかがでしょうか。