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久生十蘭の作品の特徴
十蘭の作風は、軽快な文体とめまぐるしく展開する物語です。また、鋭い人間観察から得られた躍動感ある心情描写とパラドックスな論理で展開していく作品は、読者を飽きさせません。例えば、十蘭の晩年の作品「母子像」は、1955年(昭和30)「ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン」紙主催の第2回国際短篇小説コンクールにおいて、第1席を獲得しました。また世界、日本の小説家から高く評価されました。文芸評論家・尾崎秀樹は、「本作は、『戦争の惨禍が生んだ悲劇』を主題としたものであり、現在と過去を重ねながら少年の行為と心理を追った構成で、既成の小説概念を超えるものであった」と残しています。鋭い人間観察から得られた「母と息子」心情描写。刑事部屋で太郎に質問していくことで見事に覆される「ヨハネの推測」は、まさにパラドックスな論理的展開です。
推理、ユーモア、歴史・時代小説など幅広い分野で作品を残したことから窺えるように、博識を活かして作品を執筆していたと思われます。その中でも、探偵小説と捕物帳を多数書き下ろしました。
おすすめ代表作3選
久生十蘭のお勧めの3作品を紹介します。
母子像
十蘭の晩年の作品になります。また、短編小説の中で代表作になります。1954年3月26日に読売新聞の朝刊に初めて記載されました。第2次世界大戦中、日本軍とアメリ軍がマリアナ諸島サイパン島を舞台に戦った「サイパンの戦い」後、日本軍が全滅しました。その戦火を生き残った親子の話を元に「母子像」は、書かれました。
十蘭はこの作品で1955年(昭和30)「ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン」紙主催の第2回国際短篇小説コンクールにおいて、第1席を獲得しました。
あらすじ
教諭ヨハネが担当していた生徒・太郎が放火事件を起こした疑いで、警察に呼び出されるところから、話が始まります。警察官とのやり取りの中「好青年な太郎」というヨハネの太郎へのイメージが崩れていきます。それは、太郎は放火事件以外にも何件か補導を受けていたことが明るみ出たからです。ヨハネは、刑事部屋に移り、太郎にそれまでに起こした事件について1つ1つ確認していきます。ヨハネは、太郎の行動を誤解していたことに気づき始めます。「美しすぎる母」との関係でやりきれぬ思春期の少年の心情が浮き彫りになっていきます。
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予言
1947年(昭和20)に発表された短編小説です。十蘭の妻・久生幸子は、こんな言葉を残しています。「十蘭が最も愛した自身の作品は、『母子像』と『予言』の2つである」
あらすじ
物語は、タイトル通り1つの「予言」を巡って展開していきます。
林檎の絵を描き続ける安部忠良は、売れない若い画家。美男子のため女性との噂話は絶えませんでした。そんなある日、知世子という女性と婚約します。そんな、順風満帆な人生に危機が訪れます。風の噂を元に、パリでセザンヌの絵を購入したという精神病研究者の石黒宅を訪ねます。しかしフランスからの帰途の為、石黒は不在でした。彼の妻の計らいで、その絵を鑑賞させてもらう事になりました。その後、たびたび石黒宅にその絵を鑑賞しに通いました。ある日突然、石黒の妻が自殺してしまいます。巷には、そからぬ彼女と安部の噂が飛び交います。日本へ帰国した石黒は、妻を失くした絶望より「安部」へ嫉妬を燃やします。そして、安倍に自殺を「予言」した一通の手紙を送ります。新婚旅行の初日に届いたその手紙を軸にして話は思わぬ展開に進んでいきます。
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顎十郎捕物帳
「顎十郎捕物帳」は十蘭によって書かれた時代小説です。また、1939年(昭和14)から1940年(昭和15)にかけて、雑誌「奇譚」や「新青年」に記載された24話をまとめた物です。1957年(昭和32)、1968年(昭和43)テレビドラマ化されました。そして、推理小説家・都筑道が十蘭の遺族の許可を得て、1980年(昭和55)から1985年(昭和60)にかけて「新顎十郎捕物帳」が執筆された。
あらすじ
舞台は幕末の江戸時代。並外れた顎を持つ仙波阿古十郎・通称「顎十郎」を主人公にした捕物帳です。現代でいう小説になります。
「顎十郎」は、江戸幕府の役職をしていましたが半年で辞めてしまいます。その後、伝手を伝って町奉所の例繰方の仕事を得ます。そして、組下の松五郎から持ち込まれる事件を頭脳明晰な「顎十郎」は、次々と解決していきます。
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まとめ
久生十蘭の作品の特徴とお勧め作品3選を紹介しました。生涯を通して様々な作品を書き残した十蘭。鋭い人間観察から導かれるスピーディーな心情描写で読者の心を一瞬して掴み、彼の世界へ引き込みます。そして、逆説的な論理で読者を「あっ」と思わせるところに彼の手腕が光ます。
こちらで紹介した作品を読んでみるのよし、またご自分の好きなジャンルの十蘭の本を読ん見てはいかがでしょうか。