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大岡昇平は自身の戦争体験を元に発表した「俘虜記(ふりょき)」が大きな注目を集め、「野火」や「レイテ戦記」などの数々の名作を残した20世紀の日本文学を代表する作家の一人です。戦争ものだけではなく、「事件」といった傑作推理小説を残し、数多くの映像化もなされています。近年では2015年に「野火」が映画化されたため、映画でご存知の方も多いかもしれません。そこで今回は、大岡昇平の作品の特徴やおすすめ代表作を6つご紹介します。
大岡昇平の作品の特徴や評価
わずか10歳で執筆した「赤いリボン」が雑誌「赤い鳥」に入選し、北原白秋から褒められるなど、幼い頃から文学的才能を示した大岡昇平。これは、大岡昇平が文学者として生きる最初の傾向だったのかもしれません。大学時代にはスタンダールに傾倒し、スタンダール研究者としても大きな功績を残しています。
戦争のために戦地へ行き過酷な経験をした大岡昇平ですが、この経験から「俘虜記」を発表し、戦争文学の第一人者としての地位を確立します。単なる戦争文学とは異なり、戦地の人間の深層心理や心情変化、人間のエゴや本性に焦点をあて「人間性を浮き彫りにする」点が、大岡作品の特徴といえるでしょう。
また大岡昇平は戦争文学にとどまらず、「事件」などの推理小説や「武蔵野夫人」などの恋愛小説も発表し世間から広く評価されました。
作家の分類としては第二次戦後派作家に属し、大岡昇平の他に三島由紀夫や安部工房、井上光晴などが挙げられます。
大岡昇平のおすすめ代表作
おすすめ代表作を6つご紹介します。戦争文学や推理小説、恋愛小説までありますので、ぜひ一度読んでみてはいかがでしょうか。
野火
1951年(昭和26)、雑誌「展望」に発表された作品です。大岡自身のフィリピンでの体験を元に執筆されました。この作品により読売文学賞を受賞し、「大岡の最高傑作」と評価する人もいます。太平洋戦争末期のフィリピン(レイテ島)が舞台です。肺病により部隊を追われた主人公・田村。田村がレイテ島で見た、追い詰められた人間の本性とは・・・。田村が見た「世界」には何があったのでしょうか。エドガー・アラン・ポーの「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」がモチーフとなっているそうです。
また近年では2015年に塚本晋也氏によって映画化され、大きな話題となりました。
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レイテ戦記
日本軍8万4千人が犠牲になった「レイテ島における死闘」を描いた、大岡昇平の傑作です。1967年から1969年に「中央公論」にて連載され、この作品により大岡は毎日芸術賞を受賞しています(1972年)。全3巻からなる大作で、この作品について大岡は「結局は小説家である著者が見た夢の集約である」と語っています。
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事件
1961年から1962年に新聞連載された「若草物語」に加筆し、のちに「事件」として発表しました。戦後を代表する推理小説といわれ、いくどとなく映像化されています。この作品により大岡昇平は1978年(昭和53)、日本推理作家協会賞を受賞しています。
神奈川県の山林で若い女性の死体が発見されるところから物語は始まります。事件発覚から数日、19歳の工員が容疑者として逮捕されますが、この少年は殺害された女性の妹と小学校からの同級生で、ゆくゆくは結婚を考えていました。
やがて裁判が始まり関係者から次々と事件の証言がなされますが、証言が出るほどに謎は深まるばかり・・・。ベテラン弁護士、菊池がたどり着いた真相とは・・・。
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俘虜記
1949年(昭和24)に発表され、第1回横光利一賞を受賞した作品です。この作品は、大岡昇平が自身の作家としての地位を確立した重要な作品です。第2次世界大戦以降の戦争文学の金字塔(きんじとう)とされ、大岡昇平の家庭教師をしていた評論家の小林秀雄はこの作品を賞賛したと言われています。「米兵を撃たなかった」ことや、収容所における人間のエゴや本性を描いた点で一般的な戦争文学とは異なり、大岡自身の言葉を借りれば「俘虜収容所の事実を藉り(かり)て、占領下の社会を風刺するのが意図だった」そうです。
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ながい旅
1981年に新聞連載され、実在の陸軍中将・岡田資(おかだ・たすく)の軍事裁判を追いかけた作品となっています。1968年頃から大岡はこの作品の構想を練っていたようですが、裁判記録がアメリカにあるために資料を閲覧できず、公判から30年を経てようやく着手しました。タイトルの「ながい旅」とは、戦後36年という公判記録公開までの時間を意味しているそうです。2008年には「明日への遺言」のタイトルで映画化されています。
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武蔵野夫人
大岡昇平が描く恋愛小説です。1950年以降、戦後を代表するベストセラーといわれています。フランスの作家レイモン・ラディゲの「ドルジェル伯の舞踏会」を手本にしたロマネスク小説の傑作です。ロマネスク小説とは、豊かな想像力で現実の論理を超えた幻想的な性質を持つ作品のことです。1951年に映画化され、1960年代にはテレビドラマにもなっている作品です。
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まとめ
いかがでしたか?今回は大岡昇平の作品の特徴やおすすめ代表作をご紹介しました。どれもリアルでありながら、考えさせられる作品ばかりです。緻密に練り上げられた構成と、人物描写の素晴らしさは、大岡昇平の真骨頂といえるのではないでしょうか。重い作品が多いですが、ときにはじっくりと腰を据えて読書をするのも良いかもしれませんよ。