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38歳という若さで自ら命を絶った太宰治。作家として大いに注目を集め人気作家となりましたが、その人生は波乱に満ちたものでした。度重なる自殺未遂や薬物中毒、また女性関係も誠実ではありませんでした。そんな太宰治の作風は「無頼派」と呼ばれ、伝統的な文学スタイルとは一線を画すものとなりました。そこで今回は太宰治の作品の特徴や、おすすめ代表作をご紹介します。
太宰治の作品の特徴と評価
太宰作品の特徴は、人生の絶望や退廃を描き出す作品や、ユーモラスな短編、友情話やおとぎ話からの転用など、さまざまなジャンルを手がけているところにあります。また太宰の作品は、たとえ破滅的な内容であったとしても、そのなかの主人公や登場人物がくつぶやく何気ない「セリフ」一言に救いがあるような、そんな不思議な魅力があります。
例えば、酒と女性に溺れる旦那に苦しめられながらも、懸命に生きようとする主人公を描いた名作「ヴィヨンの妻」のなかに次のようなセリフがあります。
「一寸(ちょっと)の幸せには一瞬の魔物が必ずくっついてまいります。人間365日、何の心配もない日が、一日、いや半日あったら、それは幸せな人間です」
苦しい状況だからこそ小さな小さな幸せに目を向ける視点は、もしかしたら作者である太宰の救いでもあったのかもしれません。
また太宰は「読者に語りかけるような」文体を意識して書いています。この手法は
「潜在的2人称」と呼ばれ、太宰独特の表現方法とされており、これにより読者は作品を「より身近に」感じることができるようです。太宰治はその生涯で大きな賞を受賞することができませんでした。しかし「人間失格」は夏目漱石の「こころ」に次いで2番目に読まれている文学作品であり、それだけ太宰の作品は人間の心の普遍性(自意識)を表現した作家といえるのではないでしょうか。
おすすめ代表作6選
多くの名作を残した太宰治の作品のなかから、おすすめ作品を6作品ご紹介します。どの作品も読み応え十分ですので、ぜひ読んでみてください。
斜陽
1947年7月から10月まで「新潮」に掲載された中編小説です。太宰が亡くなる前年に執筆されました。没落していく人々の姿や心情を描いた晩年の代表作であると共に、「斜陽族」という流行語も生み出しました。この作品には、疎開した津軽の実家の衰退した姿が投影されています。斜陽を書くにあたって太宰は、ロシアの作家チェーホフの「桜の園」をモチーフにしました。のちに太宰の生家は「斜陽館」と命名され、現在は記念館となっています。
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ヴィヨンの妻
1947年、雑誌「展望」に掲載された太宰治を代表する短編小説です。主人公・大谷は酒ばかり飲み女性にだらしなく、借金まで抱えて、妻である「私」と子供に貧乏な生活をさせていました。やがて大谷は、いきつけの小料理屋でお金を盗み、主人やおかみさんと一悶着を起こします。お金を返す当てのない「私」はその小料理屋で働き始め、少しでもお金を返そうと懸命に働きます。その間も大谷は相変わらずの放蕩ぶりで、悪びれるようすもなく「私」が働く小料理屋に来ますが・・・。「私」が大谷に放った最後の一言に心が揺さぶられます。近年では2009年に同作を元にした映画が制作されました。
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女生徒(じょせいと)
1939年、雑誌「文學界」に掲載された短編小説です。前年に太宰の元に送られてきた女性読者の日記を元に執筆されました。この作品について川端康成は「『女生徒』のような作品に出会えることは、時評家の偶然の幸運」と絶賛しました。
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走れメロス
1940年「新潮」に掲載された短編小説であり、太宰作品のなかでももっとも有名な作品です。暴君ディオニス王の話を聞いたメロスは激怒し王の暗殺を企てます。しかしメロスはあっけなく捉えられ、王の元に引き出されます。人間不信に陥っているディオニス王の考えに、「人を疑うことは恥ずべきことだ」と反論するメロス。やがて事態は思わぬ展開となり、メロスは親友セリヌンティウスとの約束のために懸命に走ります。
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人間失格
太宰が生前に完成させた最後の作品です。1948年3月から執筆を開始し5月に完成しました。雑誌「展望」に掲載され、太宰が亡くなった翌月の7月に「グッド・バイ」とともに単行本として刊行されました。「はしがき」「第一の手記「第二の手記」「第三の手記」「あとがき」という章立てになっており、「第一の手記」の冒頭部分「恥の多い生涯を送って来ました」という出だしは有名です。
作中の「自分」とは一体何者であり、どのような人生をたどって来たのか。一度は読んでおくべき名作です。
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グッド・バイ
1948年6月に朝日新聞に第1話が連載され、2話から13話は朝日評論で連載されました。6月に太宰が亡くなったため、未完となっています。前妻を亡くした雑誌編集者の田島は、新しい妻を迎え不自由なく生活しています。しかし田島には10人の愛人がおり、なんとかして愛人たちと縁を切ろうと考え、絶世の美女のキヌ子を連れて愛人の元へ行き別れを切り出しますが・・・。未完であるのが悔やまれる作品です。
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まとめ
今回は太宰治の作品の特徴とおすすめ代表作をご紹介しました。どれも名作揃いで有名な作品ですので読んだことがある方も多いのではないかと思います。ですが読書は読む時期によって感じ方も変わりますので、一度読んだことのある作品も再度読み直すと新しい発見があるかもしれません。