出典:[amazon]永井荷風 名作全集: 日本文学作品全集(電子版) (永井荷風文学研究会)
永井荷風は明治~大正~昭和を生きた作家で、自由なひとり暮らしを謳歌し、79年の生涯を通して、小説・詩・日記といった数多くの作品を残しました。美を重視する耽美派と呼ばれる作風で、夏目漱石や森鴎外、谷崎潤一郎などとも交流がある、近代文学を代表とする人物です。
この記事では、永井荷風の代表作をご紹介しますので、作品を読んだことがない方も参考にしてみてください。
作品の特徴と評価
永井荷風の作品は、とても自由な作風で、過去の日本を知る手がかりとなる作品から官能的なものまで多数存在します。
永井荷風の作品には、アメリカやフランスの外遊期間に培った個人主義的な思想やフランス文学や江戸の戯作文学からの影響、反時代的な姿勢をみることができます。
谷崎潤一郎などとともに、耽美派と呼ばれており、白樺派に反して道徳よりも美的感覚を重視する作風で、娼婦や芸者、売春婦たちなど女性が多く登場します。
永井荷風は「地獄の花」が森鴎外に絶賛され出世作となり、夏目漱石や森鴎外の推薦で慶應義塾大学の教授に就任したほか、晩年には文化勲章受章や日本芸術院会員にも選ばれるなど、高い評価をうけています。
永井荷風の代表作6選
永井荷風の代表作をご紹介します。どの作品も、豊かな美の描写や時代の様子、独特な視点など荷風のエッセンスが伝わってきます。
「あめりか物語」
24~28歳までの4年間のアメリカ見聞を、渡航中の情景を表した「船房夜話」、「林間」、「酔美人」など、24篇の小説に収めた短編集で、横浜正金銀行アメリカニューヨーク支店に勤務していたときに執筆し、フランスに渡ったあとにまとめたものです。若々しく新鮮で、感覚的、リズミカルな文章からは、異国の文物に対峙した荷風の孤独感や批判精神が伝わってきます。ニューヨークやマンハッタン、ブルックリンブリッジ、自由の女神などアメリカの名所も出てくるので、異国への関心ある人々にも新鮮に映ったでしょう。
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「ふらんす物語」
「あめりか物語」の続編ともいえる「ふらんす物語」は日本を下げる表現が多かったからか「風俗紊乱の書」として発禁処分になり、しばらく封印された本でもあります。荷風のフランス好きが伝わってくる作品で、フランスの気候風土を論じた「安芸のちまた」や、文豪たちの墓地巡り「墓詣」、リヨン郊外の秀逸な描写が印象的な「蛇つかい」などの短編集です。
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「濹東綺譚」
娼婦との恋愛がテーマの長編作品で、1992年には映画化もされている有名な作品です。小説家大江匠と娼婦お雪との切ない恋を描いた内容で、主人公は荷風自身を表しているといわれています。東京玉の井という芸妓たちが住むエリアにたどり着いた大江匠。突然の雨に傘を広げると、そこにお雪が入ってきて・・・という出会いからはじまります。
芸妓とお客というふたりの身分の違いの特殊な関係が独特な空気感を感じる小説です。
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「日和下駄」
サブタイトル「一名東京散策記」の通り、「江戸切図」を持った荷風が、思いのまま東京の裏町を歩き散策するという内容の作品です。江戸文化への親しみや失われていく哀愁のようなものを感じながら荷風が無目的に東京をめぐります。「寺」、「水附渡船」、「路地」、「閑地」、「崖」、「夕日」と巡り、最後は「夕日 附 富士眺望」と進みます。現代でも、この小説を片手に東京歩きをする人もいるそうで、東京の案内本ともいえる小説です。
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断腸亭日乗
永井荷風の人生や世の中の様子がよく分かる、1917年~1959年まで40年間にわたって書かれた日記です。「断腸亭」というのは、荷風が大正5年(1916年)から2年間住んだ、新宿区余丁町の家のことで、庭に断腸花(=秋海棠/しゅうかいどう)が植えられていたことや、荷風自身が腸を患っていたことに由来するといわれています。
戦時中の記述も克明に記されており、戦中・戦後の不安定な日々を送る様子や食糧難の苦難がよくわかり、荷風の心情と世の中の移り変わりが一体となっている貴重な日記です。
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腕くらべ
「腕くらべ」は、長編小説で、雑誌「文明」に1916年~1917年の間に連載されました。東京新橋の花柳界を舞台として、駒代という芸妓に関わる人間模様を描いた作品で、駒代の心理描写が克明に描かれています。いかにも「荷風らしい」という評価も得ていますが、風紀を乱すとして発表当時は発禁処分になり、しばらくは友人や知人にのみ配っていた作品でした。
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まとめ
いかがでしたか?今回は永井荷風の作品の特徴や評価、おすすめ作品を紹介しました。
耽美派とよばれるように美的な描写にすぐれ、官能的でもある作品や気ままな散策、日記
など、ここでは紹介しきれないほどの数多くの作品を世に出した永井荷風。どの作品にも荷風独特の自由を謳歌する人間性が現れているように感じられます。短編集もありますので、気軽に荷風の世界観に入ってみるのはいかがでしょうか?