出典:[amazon]事故…クリスティ犯罪・怪奇傑作選
アガサ・クリスティの作品の特徴やおすすめの本にについて紹介します。
アガサ・クリスティの作品の特徴及び評価
アガサの描き出す斬新なトリックや舞台設定は、当時の人々にとっては驚くべきものでした。彼女の作品の魅力はそうした技巧的な側面以外にも、その文体からも見て取れます。飾り気がなく、謎を解き明かすのに必要な情報のみ見せるように書かれているのです。それゆえに、初めて読む読者にとっても読みやすく、謎解きというジャンル特有の好奇心ともいうべき追い風が、私たちのページを進めてくれます。
おすすめ代表作4選
ここでは、アガサ・クリスティの代表作を挙げながらおススメしていきます。もっとも多くの売り上げを世界中であげる作家の一人だけあり、代表作は膨大です。ざっくり分けるとアガサの作品にはいくつかシリーズがあり、エルキュール・ポアロ、ミス・マープル、トミー・タペンスなどの長編と、短編作品がいくつかがあります。その中から今回はポアロから2作品、短編を2作品ずつご紹介しましょう。
『ABC殺人事件』
いわずと知れたベルギー人の探偵、エルキュール・ポアロシリーズの代表作といえます。ABCを名乗る人物からポアロに対して犯行予告の手紙が届き物語は始まります。予告にあったようにAA、BBとイニシャルに沿って殺人が行われてゆき…
目まぐるしく急転するいくつもの事件の全容を、元軍人ヘイスティングの語りに沿って明らかにしていく構成です。一つの事件が起こるたび、ヘイスティングとポアロは犯人を追い続けてゆきます。
この作品が面白いのは、各所にサイコ・キラーであるABCの語りがあることでしょうか。その動機が度々明かされてゆくたびに、読者の緊張感は高まってゆくのです。連続殺人ゆえの疾走感から、ミステリーでありつつ驚きに満ちたサスペンスであるようにも思えます。一気に読破するのにイチ押しの一冊です。
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『オリエント急行殺人事件』
ポアロシリーズの中でも上の『ABC殺人事件』と並んで最も有名な著作の一つでしょう。演劇化、映画化されていることもあってすさまじい知名度です。あらすじはこうです。
中東からフランスまで行くオリエント急行列車。疾走する密室空間の中で、一人の男性が殺害されます。乗客である容疑者を操作していくポアロでしたが、なぜか全員がアリバイを持っているのでした。
この作品をおススメに挙げたのは、その物語の構成がシンプルでありながら非常に魅力的な書き方であるからです。物語は俯瞰してみれば、殺人の発生、容疑者たちの尋問、そして解決、とシンプルそのものです。そうしてみると陳腐な作品に聞こえますが、オリエント急行のスピード感がすべてを隠してしまいます。
アガサの巧い、あるいは独創的なところは「書きたいものしか書かない」ことであるとも言われます。オリエント急行という非日常的な舞台であっても、あくまで密室空間としてしか利用しないという潔さを感じさせるのです。それゆえに現代も広く読まれる、いうなればミステリーの教科書らしい一冊であるといえるでしょう。
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『そして誰もいなくなった』
こちらはアガサの短編の一冊です。
ある孤島に集められた10人が、童謡になぞらえて一人ずつ殺されてゆく。誰もが疑心暗鬼になり、監視しあっていたハズなのに殺人は止まらない。一人死ぬたびにテーブルの上にあった人形は姿を消し、「そして誰もいなくなった」…
この小説はこれまでの作品とは違い、密室にいる全員が「いなくなる」状態まで続きます。初めて読む際には事件のシッポをつかもうと私たちは躍起になりますが、気づけば誰かが死んでいるのです。驚いた私たちは劇中の人物と同じように、首をかしげながら隣人を見やる… そんな緊張感と不安を、孤島の潮騒と童謡がざわざわと騒ぎ立ててくるのです。
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『春にして君を離れ』
娘の見舞いにバグダッドを訪れたジョーンは、かつての女学校での友人と出会います。何のこともない旧友との邂逅でしたが、ある一言が彼女の心にずっと残り続けていました。砂漠で夜を過ごすなか、ジョーンはこれまでの人生を振り返り、幸福な家庭の裏に隠れた恐ろしい宵闇の中に真実を見つけます。
この作品はミステリーのサスペンス的な、殺人を期待する方には向かないかもしれません。というのも、この作品には死者は出ないからです。名探偵もいなければ華やかなトリックもありません。ただその読後感たるや!読み終えた後の自らも砂漠に投げ出されたかのようなうすら寒さ、今までが薄氷の上にあったことを知らしめる恐ろしさを感じずにはいられません。しかしそれでも、上の三作品とならんで強くお勧めできる一作であることは間違いありません。
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終わりに
いかがだったでしょうか。アガサ・クリスティは作品の中で、幸福や円満がいかにミステリーに向いているかよくわかっています。探偵以上に真実を追求するのはアガサの人生観でもあります。人が必死に隠したかった感情や歪み、罪の意識を丸裸にされる感覚は、アガサの作品に特有のものでしょう。それは、登場人物たちが「どこにでもいそうで、どこにもいない」からです。彼らに対するシンパシーをうまく引き出す巧さには、舌を巻かずにはいられません。
今回ご紹介した作品は、構成も単体で読めるものばかりです。電子書籍で読むことができるので、まずは一冊、手に取ってみてはいかがでしょうか。