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「好きなロシアの文学作品は?」と問われて、ゴーゴリー作品を挙げる人はどれほどいるでしょうか。
ニコライ・ゴーゴリー(1809-1852)は43年という短い生涯の中で短編、中編を多く残しました。しかし、トルストイやドストエフスキーのような大作はないのであまりゴーゴリー作品そのものを知らないという方も少なくありません。
そこで今回はニコライ・ゴーゴリーの作品の特徴、その評価について、代表作も含め、ご紹介してきます。
ニコライ・ゴーゴリーの作品の特徴及び評価
ゴーゴリーの作品は短いものが多いので、ぱっと読めてしまう手軽さはあります。しかし、短さの割に内容は濃厚なので、読み終わった後に満腹感ともいえる読みごたえを覚えます。
ニコライ・ゴーゴリーの作品の特徴
ゴーゴリー作品の特徴は二つあります。まず、恩師プーシキンの作品とは真逆の作品であるということです。
プーシキンは美しい散文の物語を多く残しました。流れるように美しい文面が非常に印象的です。
しかし、ゴーゴリーは美しさではなく醜さを描くことに執着しました。
人の内面、それも美しいところではなく醜い部分を、詳細に、くどくどしく描いているのがゴーゴリー作品の特徴です。
美しいものというのは実はそんなに説明しなくても伝わります。しかし、醜いものというのは、どこがどのように醜いのか、はっきり伝える必要があるのです。そのため、ゴーゴリーは文字数を使って、わざわざ人の愚劣さを微細に書き出すことに執着したのです。
ゴーゴリー作品のもう一つの特徴は、ゴーゴリーのルーツであるウクライナが全面的に反映されているところにあります。ウクライナ民謡や歴史、文化、民族といったものが作品のどこかしらに登場します。
このことが、トルストイやプーシキン、ドストエフスキーの作品に比べてゴーゴリー作品の方がエスニック要素が強くなっている理由なのかもしれません。
ニコライ・ゴーゴリーの作品の評価
ゴーゴリーの作品は、当時のロシアでは反動的批評家や反動上流階級からは常に悪作であるというレッテルを貼られていました。しかし、それ以外では非常に才能ある作品であるとして高く評価され、プーシキン指導の下で一躍ロシア文学界に名を馳せるほどになります。
現在では、ゴーゴリー作品はロシアにリアリズム文学を確立した立役者としての功績が讃えられています。
リアリズムと言われると、どれほど現実的な描写があるのだろうと錯覚してしまいますが、「リアリズム=現実模写」というわけではありません。
むしろ、いかに人の内面、その人物の生活の様を微細に書き出せるかということで、ゴーゴリーはそれまでのロシア文豪に比べて人物描写があらゆる面で微細だったことから、ロシアリアリズムへの道を切り開いたと言われているのです。
晩年の作品は、かなり精神崩壊の影響を受けている部分が素人にも分かるぐらいにあることから、愚作と呼ぶ人も少なくはありません。
しかし、近年では、人が精神を崩壊していくさまがはっきりと見て取れる文面もある種のリアリズムではないかと再評価する動きが出ているそうです。
ニコライ・ゴーゴリーの代表作4選
ここでは、ゴーゴリーの代表作を4つ厳選してご紹介していきます。
「ディカーニカ近郷夜話」(181831-1832)
この作品はプーシキンを唸らせた作品で、プーシキンの激賞と共に世にゴーゴリーの文豪としての名を広めたものです。
全8編の物語で構成されたもので、いずれもゴーゴリーのルーツであるウクライナをテーマにしたものです。
ゴーゴリーの生得の南方的な高笑いと南部の農民の踊り、それとゴーゴリーが元来持っている幻想的な怪奇趣味とが織り交ぜられた傑作作品です。
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「検察官」(1836)
この作品は、ゴーゴリーが書いた戯曲の中でも力作で、ゴーゴリー作品の代表作に位置付けられるものです。
旅の途中、偶然、中央政府の微行の検察官と間違われた青年が戦戦兢兢たる土地の官吏を思うさまからかって姿を消すという内容になっています。
この作品が素晴らしいとされるのは、文面に散りばめられた機知、たくみで自然な性格造型であり、近代劇中にもこのレベルのものはないと言われています。
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「外套」(1842)
「外套」はドストエフスキーが大絶賛した作品で、「我々はみな<<外套>>から出てきた」と言わしめたほどのものです。
下級官吏のアカーキーは修繕に修繕をしつくした外套を持っているのだが、ついにその外套が寿命を迎えたことを知らされます。
外套なくしてロシアの極寒を耐え抜けるわけもなく、貯金を切り崩し、なんとか外套を新調するに至ります。
普段、決められた仕事だけを淡々とこなすアカーキーが新しい外套を職場に着てきたというだけで大事件であり、祝杯をあげる騒ぎになります。
しかし、その帰りにアカーキーは外套を奪い取られ、失意のまま永眠してしまいます。
その頃、外套を奪う幽霊が出るという噂が町中で流れ、実際に目撃されるようになるのでした。
この話のベースになっているのは、ゴーゴリー自身の下級官吏経験です。そのため、より緻密な描写がなされており、風刺劇としても素晴らしいと言われています。
シンプルな内容でありながら、最後はゴシックホラー要素まで盛り込んでくるあたりがゴーゴリーの持つ独特の幻想世界だと言われています。
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「死せる魂」(1842)
恩師プーシキンより託された題材であり、ゴーゴリー作品の中でも随一の大作です。本来であれば二部構成で書かれる予定でしたが、ゴーゴリーが精神を病んでしまったことが原因で第二部の完成は幻となってしまいました。
農奴解放令が出された直後のロシアが舞台。
主人公の詐欺師チチコフが死亡した農奴の分のお金を中央政府からせしめようと画策し、ロシアを旅して回ります。
次々と地主巡りをして死んだ農奴の情報を集める中で、チチコフがクセのある人物たちを相手に、時に悩み、時に欺かれ、苦闘する姿が描き出されます。
この作品が素晴らしい作品であると言われるのは、作品のシンプルさの中に人間たちの生身の感情がむき出しになるところにあります。
チチコフが広大なロシアの端から端まで、地主巡りをしながら、死んだ農奴の取引交渉をするだけの内容ですが、詐欺師を自認するチチコフが詐欺師以上に悪知恵を働かせてくる地主にたじろぐ様は滑稽以外の何物でもありません。
人が好い人物もいれば、意地悪な人もいます。とめどない会話が延々と繰り返される中でチチコフの悩みが深まる様、愚劣ともいえる生産性のない会話など、あえて読んでみると低俗で面白いというのがこの作品の醍醐味なのです。
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まとめ
ゴーゴリーは、低俗さや愚劣さを書かせたら天下一品、彼の右に出るものはないと言われています。
ゴーゴリーは作品の全てにどこかダークファンタジーのような、ゴシックホラーのような要素を残し、不気味さを読み手に植え付けるのが得意です。そのため、ゴーゴリーの作品はなんかゾクっと感じて読み終わったあとに嫌な気持ちになるという人も少なくありません。
確かにゴーゴリーの作品の多くには彼の独創的な世界が必ず付いて回ります。しかし、それをあらかじめ分かった上で読めば、意外とゴーゴリー作品を楽しめるかもしれません。
短い作品が多く読みやすいので、気になる方は「外套」や「鼻」など短編から試してみてはいかがでしょうか。