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井伏鱒二の作品の特徴及び評価。おすすめ代表作5選

出典:[amazon]師・井伏鱒二の思い出

井伏鱒二は明治・大正・昭和・平成という4つの時代を生き抜いた、20世紀の日本文学を代表する人物の一人です。学校の教科書でその作品を学んだ方も多いのではないでしょうか。とくに「ドリトル先生」シリーズは、児童文学のベストセラーであり、現在でも多くの子供たちに愛されています。そこで今回は、井伏鱒二の作品の特徴や、おすすめ代表作をご紹介します。

井伏鱒二の作品の特徴と評価

井伏鱒二が文学を志した時代は、小林多喜二に代表されるような「プロレタリア文学」が流行していました。そのため、純文学を執筆していた井伏の作品が日の目を見るまで、相当の期間が費やされました。井伏の文章は、庶民的視点を持ちながらもユーモアに溢れており、読者を飽きさせない時代設定や人物構成が人々の共感を得ました。井伏が徹底していたのは、日本の庶民の生活を映し出すことであり、庶民の生活を破壊するような力には、怒りをあらわにしたと言われてます。

井伏の作風は、新興芸術派に分類されています。新興芸術派とは、プロレタリア文学の流行に対する反マルクス主義的立場を取った人々のことを指します。新潮の編集長だった中村武羅夫(むらお)を中心に、川端康成や竜胆寺雄(りゅうたんじ・ゆう)などで結成された「十三人倶楽部」を元にしており、当時のモダニズムを追求する作家が集まりました。

そんな井伏でしたが、世間から大きく注目されたのは「ジョン万次郎漂流記」で直木賞を受賞してからでした。このとき井伏はすでに40歳に差し掛かっていたので、文壇において早くから認められていたとは言えませんが、直木賞受賞後も「さざなみ軍記」や「多甚古村」を発表し、作家として円熟期を迎えます。

長きにわたる作家としての功績が認められ、1966年に文化勲章を授与されています。

井伏鱒二のおすすめ代表作5選

井伏鱒二の代表作を5作品ご紹介します。短編小説から長編小説までありますので、ご興味が出たらぜひご一読ください。

ジョン万次郎漂流記


1937年に発表され、第6回直木賞を受賞した中編小説です。実在の人物、中濱萬次郎の数奇な生涯を描いた作品です。中濱萬次郎の実家は貧しく、寺子屋にも通えない状態でした。そんな萬次郎でしたが、14歳のときに嵐に巻き込まれ、仲間と遭難してしまいます。なんとか無人島に漂着し、そこで暮らしていたところをアメリカの捕鯨船に助けられた萬次郎は、日本に帰国せずそのままアメリカ人とともに航海に出ます。航海中のあだ名がジョン・マンだったことから「ジョン万次郎」と呼ばれるようになりました。日本を出て、萬次郎が見た景色とは・・・。今でこそ「ジョン万次郎」という名前は有名ですが、この名前を名付けたのは井伏鱒二です。

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駅前旅館

日本映画史上でも屈指の名作喜劇と言われる「駅前シリーズ」の原作となった作品です。
昭和30年代の上野駅前の団体旅館が舞台です。幼い頃から女中の部屋で寝起きしていた主人公がやがて番頭となり、宿屋の舞台裏を語るというストーリーです。井伏鱒二のユーモア溢れる傑作小説として知られています。

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黒い雨

広島に原爆が投下された数年後が舞台となっています。タイトルの「黒い雨」とは放射能を含んだ雨のことで、実際に原爆の被害に合わなくても「黒い雨」に触れることで、健康被害が出ることで知られています。そんななか、主人公の閑間重松(しづま・しげまつ)は妻・シゲ子と姪の矢須子となんとか生活しています。重松は原爆の被害で重労働をすることができず、周りから冷ややかな目で見られていました。もう一つの問題は、姪の矢須子の縁談が難儀していることでした。そんななか、矢須子に縁談の話が舞い込みます。

原爆の悲劇と、残された者が懸命に生きる姿が描かれた井伏の後期の傑作です。この作品は、重松静馬が残した「重松日記」を元に書かれています。

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山椒魚

井伏鱒二を代表する短編小説です。国語の教科書でも採用されているので、ご存知の方も多いと思います。井伏が学生時代に書いた「幽閉」を改作し「山椒魚」が生まれました。「幽閉」は若き太宰治に大きな影響を与えたと言われています。

1929年に同人雑誌「文芸都市」に掲載され、のちに作品集「夜ふけと梅の花」に収録されるなど、著作集の巻頭を飾ることが多い作品です。井伏自身が選んだ全集を作成するにあたり、結末が大幅にカットされたことで議論を呼びました。また、およそ60年間の作家生活のなか、何度も少しずつ改訂された作品としても知られています。

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「ドリトル先生」シリーズ

「ドリトル先生」シリーズは井伏作品ではありませんが、井伏はこの作品の翻訳者としても知られています。イギリス出身の作家・ヒュー・ロフティングの代表作であり、「ドリトル先生アフリカゆき」や「ドリトル先生のサーカス」など世界中の子供たちに愛されています。「動物語」を話せるドリトル先生の心温まるストーリーとなっています。

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まとめ

いかがでしたか?今回は井伏鱒二の作品の特徴や代表作をご紹介しました。どの作品も井伏の個性が表れていて、平明でわかりやすい作品だと思います。今回ご紹介した作品以外にも、多くの作品を残していますので、ぜひお気に入りの作品を見つけてみてください。

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