江國香織のプロフィール。経歴は?家族は?作品の特徴やおすすめ代表作4選

出典:[amazon]新潮ムック 江國香織ヴァラエティ (Shincho mook)

「恋愛小説の女王」ともよばれる江國香織の作品は『きらきらひかる』や『冷静と情熱のあいだ』『東京タワー』など映画化・ドラマ化されたものも数々あり、教科書に短編小説「デューク」が掲載されたことなどから、彼女の作品に一度は触れたことがある方も多いのではないでしょうか。
江國は小説のみならず、エッセイ、童話、詩、絵本の翻訳など多岐にわたる執筆活動をおこなっています。繊細で美しく抒情的な文体で、登場人物の複雑でふかい感情表現や、日常のなかの煌めくようなかけがえのない非日常をえがいた彼女の作品は大変人気が高く、多くの読者のこころを惹きつけています。
2004年に『号泣する準備はできていた』で直木賞を受賞するなど、多くの文学賞も受賞する才能豊かな小説家・児童文学作家、江國香織とはどのような人物なのでしょうか。今回は江國香織の経歴や作品の特徴、おすすめ代表作などをご紹介します。

江國香織のプロフィール、経歴

江國香織は、1964年3月21日、エッセイストの父・江國滋と母・勢津子のあいだに長女として東京都に生まれました。幼いころから絵本をよく読み、現在でも「つねに本を読んでいる」というほど日々おおくの本をよむ読書家として知られています。また、小さいときからことばが好きだったので、よく物語などをかいて遊んでいたそうです。
目白学園女子短期大学国文学科を卒業し、アテネ・フランセを経て、出版社勤務の後、米国デラウェア大学に留学しました。
1985年に月刊誌の「ユリイカ」に「綿菓子」を初投稿し「今月の作品」に選出され、掲載されます。1986年には児童文学雑誌の「飛ぶ教室」に投稿した「桃子」が入選。
1987年「草之丞の話」を書き、小さな童話大賞を受賞し、童話作家としてスタートします。

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1989年にアメリカ留学時の体験を題材にした小説「409ラドクリフ」がフェミナ賞を受賞。
同年、初の短編小説集「つめたいよるに」を刊行します。1991年には童話集「こうばしい日々」で産経児童出版文化賞を受賞し、翌年坪田譲治文学賞を受賞します。

その後『きらきらひかる』がはじめて映画化され、一躍脚光を浴び、この作品で1992年に紫式部文学賞を受賞。そして江國が29歳のとき、銀行員の男性と結婚します。
それ以降も、多くの読者に共感される作品をつぎつぎと発表し続け、数々の著書で文学賞を受賞します。
主なところでは、1999年の『ぼくの小鳥ちゃん』で路傍の石文学賞を受賞し、2002年の描き下ろし短編集「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」で山本周五郎賞を受賞しました。
そして、2004年の『号泣する準備はできていた』で直木賞を、2007年の『がらくた』で島清恋愛文学賞、2012年に『犬とハモニカ』で川端康成文学賞、2015年『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』で谷崎潤一郎賞を受賞しています。

小説以外にもエッセイや、詩、童話、海外絵本や児童文学の翻訳など幅広い執筆活動をおこない、多数の作品を執筆してきました。そして、江國香織は現在も人々のこころを惹きつけるすばらしい作品を生み出し続けています。

主な受賞歴

・1989年『409ラドクリフ』・・・第1回フェミナ賞
・1991年『こうばしい日々』・・・第7回坪田譲治文学賞
・1992年『きらきらひかる』・・・第2回紫式部文学賞
・1999年『ぼくの小鳥ちゃん』・・・第21回路傍の石文学賞
・2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』・・・第15回山本周五郎賞
・2004年『号泣する準備はできていた』・・・第130回直木賞
・2012年『犬とハモニカ』・・・第38回川端康成文学賞
・2015年『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』・・・第51回谷崎潤一郎賞

家族

父親はエッセイストの江國滋で、妹は書籍編集者の江國晴子です。そして、銀行員の夫がいます。

作品の特徴

江國香織は小説、詩、童話、エッセイ、絵本、そして海外文学の翻訳と、さまざまなジャンルで数多くの作品を執筆しています。
たえず新鮮でいきいきとした感性で、洗練されたうつくしいリズム感をもつ独特な透明感をもった世界観を展開しています。

リアルな大人の恋愛小説を数多くかき、「恋愛小説の女王」と呼ばれる一方で、ファンタジーや家族、青春期の主人公の作品を執筆するなどテーマは様々です。やわらかい印象の児童文学から大人の恋愛までをあつかい、登場人物の心理描写を繊細にうつくしく表現し、それぞれをみごとに書き切っています。

不倫など、重いテーマを扱いながらも、瑞々しい感性で深くゆれうごく感情をえがき、人生のすばらしくかけがえのない瞬間を物語に刻み、耽美的な文章で生きることの力強さときらめきを感じさせてくれます。
感覚にかたりかけるような表現で、平易なことばで綴られた文章は、読者のこころにすっとしみ込んでくるようです。そしてひらがな使いが多い彼女の文体は、柔らかでよみやすい印象です。
また、江國の文体はていねいに執筆された細部の描写が積み重なっています。物語の細かいところに真実味をかんじられるかが、その物語を信じられるかどうかだと、江國はのべています。説明しないために、細部をかくことで全部を想像してもらえるようディテールを執筆するのだそうです。

日常の中にあるうつくしい非日常がこまやかに描かれていて、わたしたちが過ごす日々がいかにおおくの素晴らしいもので彩られているか、その「人生のふくよかさ」に気付かされます。日常の中にある宝石のようにすばらしい瞬間を、心にきざむような表現がわたしたちのこころを潤してくれるようです。また、彼女の作品には食が多く描かれています。日常のささいなことである食を書くことで、登場人物の性格や心理、物語の深層などを、食のイメージをうまく使うことで深く描写しようとしています。そして日常のなかのちいさな好きなものをとおして、登場人物の性格や複雑でふかいきもちを表現しているのです。

カタカナの固有名詞が多く登場する江國の作品は、文脈に海外の要素が存在するため、カタカナの固有名詞がよく似合います。彼女の作品は、日本でありながらどこか他の国の話であるような不思議でおしゃれな雰囲気をともないます。留学経験や堪能な語学力を生かし、翻訳をおこなうことで培ったものが、海外の雰囲気を作品にたたえている要因なのではないでしょうか。

江國の基本の感情は淋しさであると述べているとおり、作品にベースとして淋しさが、マイナスのものとしてでなく安定して漂っているようです。
江國は、いつも「正解はない」ということを書いていきたいと述べています。世の中の常識や固定概念から自由になり、自分のほんとうのこころをみつめられるところが、彼女の作品を読んでくつろいだ気持ちになれる理由でもあるのではないでしょうか。
誰の心にもある複雑で繊細な感情をていねいに描いたものがおおく、人生の各ステージで何度も読み返し、それぞれの時期でちがった味わいをたのしめます。
江國の作品は短編や掌編も多く、短い中にも濃く複雑なあたらしい感情体験ができます。
また、すべてを説明的に書き切らず、読者がそれぞれで考える、粋な余地が作品には存在するのも特徴です。童話作家としてスタートした江國らしく、「デューク」のように児童文学のようなやさしい作風の小説や、エッセイも多くあります。
そして文学界での評価も高く、数々の文学賞も受賞しています。

おすすめ代表作4選

つめたいよるに

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江國の魅力が詰まった、みずみずしい輝きをもつ21編の短編集。
江國の小説世界のはじまりのような、かなしくもやさしい出会いと別れをえがいた不思議な物語「デューク」をはじめ、デビュー作の「桃子」や「草之丞の話」も収録されています。
現実と幻想のあいだを行ったり来たりするような、境目のあいまいな生と死のあいだを行き来するような物語で、童話的な世界観もたのしめます。かなり短い作品もおおく、日々のちょっとした時間にすぐに読めるのに、深い感動をあじわえるので、彼女の作品の魅力を味わいたい方はぜひ読んでみてください。10代の方にもおすすめの一冊です。

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号泣する準備はできていた

この作品で、2004年第130回直木賞を受賞しています。
恋のおわりの、さまざまな感情を含むさみしいきもちを描いた表題作のほか、12の短編をあつめた作品集です。たしかにそこにあったと思える愛を喪失し、かなしむとき、人はきっと「号泣する準備はできていた」。日常と非日常が絶妙に混在し、大丈夫だと勇気を与えてくれる作品です。
結末をはっきりとつけていない作品群で、読む人がそれぞれにいろいろなことを想像する余白のある力強いものがたりです。

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きらきらひかる

本作で第2回紫式部文学賞を受賞しました。江國作品、初期の人気作で映画化もされています。
妻の笑子はアルコール中毒で、医師の夫・睦月は同性愛者。そこに、夫の恋人・紺をまじえ、不思議な三角関係をえがいています。すべて受け入れて結婚したはずの、セックスレス夫婦の奇妙な新婚生活から、ふかい友情、真の愛、誠実とは何かなどが浮き彫りにされていきます。
愛についてかんがえさせられる純度の高い恋愛小説です。江國は「誰かを好きになるということ、その人を感じるということ。」「ごく基本的な恋愛小説を書こうと思いました。」と述べています。

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泳ぐのに、安全でも適切でもありません

第15回山本周五郎賞受賞作品。
江國が短編小説をかきたいと思い、完成した短編集です。愛をとおして描かれる10人の女性のいろいろな生活、人生などをえがいた物語。人を愛することによって生じる苦しみや喜びなどさまざまな感情が表現されています。愛だけには躊躇わない、もしくは躊躇わなかった女性たちの話です。その甘くすばらしい一瞬を生きたのは、ほかならぬ彼女たちであったという鮮烈さを、延々とつづくこれからの日々の果てしなさとともに感じられる作品。
本作の題名は、作者がアメリカ旅行時に見た立て札の言葉を訳したもので、人生にも同じことがいえるのではないでしょうか。
江國もまた、このものがたりに登場する「彼女たち」の一人と述べています。

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まとめ

いかがでしたか?今回は江國香織のプロフィールや作品の特徴、おすすめ代表作を紹介してきました。
癒される美しいものが、誰もが過ごす日常のなかにいかに存在するかを気付かせてくれ、どのような状態であっても懸命に生きる日々を肯定してくれるような、力をあたえてくれる江國香織の作品。忙しく頑張っているときや、毎日につかれたとき、こころにそっと寄りそってほしいときにふれていただきたい作品です。
江國香織の作品は、小説以外にもエッセイ、童話的な作品、彼女のこころを最もよくあらわす詩など、多くのジャンルでさまざまなテイストのものがあります。さらりと読める物語のなかにも、深く複雑で重厚な登場人物の心理描写などがしっかりとえがかれていますので、きっと豊かですばらしい読書体験をたのしめると思います。掌編とよばれるすぐに読める作品もありますので、気軽にその時の気分にあわせて、読んでみたい作品を手に取ってみてはいかがでしょうか。

参考文献

・『江國香織ヴァラエティ』(2002)新潮社

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