出典:[amazon]決定版 島崎藤村全集 日本文学名作全集
日本文学において自然主義を確立した文豪島崎藤村。皆さんの中にも「破戒」や「夜明け前」など、一度は読まれた方も多いのではないでしょうか。また詩人として作家活動をスタートした藤村は、「若菜集」の作者としても知られています。明治に生まれ昭和まで活躍した藤村は「親譲りの憂鬱」を抱えながらも意欲的に作品を執筆し、数々の名作を世に送り出しました。そこで今回は島崎藤村の作品や、おすすめ代表作をご紹介します。
島崎藤村の作品の特徴や評価について
島崎藤村の作品の傾向はどのようなものだったのでしょうか。自身の体験を赤裸々に描く作風は、多くの作家に影響を与えました。
自然主義文学とはどんなもの?
自然主義文学とは、19世紀フランスの作家エミール・ゾラなどが提唱した文学運動です。ゾラの他にモーパッサンやドーデーなどがその代表的人物とされています。自然科学の発達と産業革命を背景に、現実をありのままに映し出す「写実主義」の延長として提唱され、日本文学においては坪内逍遥や二葉亭四迷が写実主義文学の先達となりました。その後、写実主義に日本的感性を加え、自然主義文学を完成させたのが田山花袋と島崎藤村です。
デビュー当時は詩人だった藤村
大学卒業後の藤村は主に教員として生計を立てていました。一方で、巌本善治の紹介で女性雑誌に翻訳を掲載し、時には匿名で自作の小説を載せるなど、教員をしながら細々と作品を発表していたようです。20代後半、仙台に移住した頃に詩作を始めるようになり、「初恋」を含む詩集「若菜集」を発表して本格的に作家となります。デビュー当時は詩人でしたが、徐々に詩作から離れるようになり、小説家へ転身します。
作品にとことん生き様を反映させて執筆
自然主義の文学は実生活や実体験そのものを映し出す「写実主義」であり、藤村は写実主義に日本的精神性を巧みに取り入れた作家と言えます。それは体験の良し悪しにかかわらず、作者の人生を通して綴られた「作者自身の物語」と言えるでしょう。
長野県の小諸(こもろ)で6年間を過ごし、小諸に流れる美しい千曲川(ちくまがわ)や人々の生活を生き生きと描写した「千曲川のスケッチ」。また、教え子に恋愛感情を抱き、自責の念に悩まされる藤村自身の姿を投影させた「春」。栄養失調で3人の幼い娘を失った悲しみを綴る「家」などは、まさに藤村の実体験が文学に昇華された、日本文学における記念碑的作品とされています。
重鎮として日本ペンクラブ初代会長就任
たび重なる子供たちの死や、近親相姦によるスキャンダルなどで波瀾万丈の人生だった島崎藤村。しかし藤村は、自らの体験を糧にするかのように(時には反省を含めて)作品を執筆しています。「若菜集」で注目を集め「夜明け前」で文壇屈指の作家となった藤村は、1935年に発足された日本ペンクラブ初代会長に就任しています(2代目は正宗白鳥です)。現在まで続く同クラブの初代会長に就任したのも、藤村の文壇での評価が高かったからに他なりません。
おすすめ作品5選
おすすめ作品を5つ紹介します。今回はメジャーな作品ばかりですが「破戒」以降多くの作品を残しているので、ぜひ他の作品も探してみてください。
新生
島崎藤村と姪・こま子との関係をもとに執筆された作品です。こま子との関係から逃げるようにフランスへ旅立った藤村ですが、帰国後に関係が再燃してしまいます。「新生」ではこま子への思いや葛藤が描かれていると同時に、こま子との関係を精算する意味も込められています。1919年に刊行され反響を呼びましたが、これを読んだ芥川龍之介からは痛烈な批判が寄せられました。
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若菜集
詩人・島崎藤村の代表作です。特に「まだあげ初めし前髪の 林檎のもとにみえしとき」で始まる「初恋」は「若菜集」を代表する作品です。明治時代に作られたロマン派文学を代表する詩集であり、繊細な描写と柔らかな言葉の流れが読む人の心に沁み入ります。
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破戒
小説家・島崎藤村をもっとも代表する作品の一つです。1906年に自費出版で出版された本作は、出版と同時に人気を博し半年で4度再版されました。
部落出身の主人公・瀬川丑松(うしまつ)は、父から身分を隠すよう固く戒められます。しかし同じく部落出身で、解放運動に参加していた猪子蓮太郎の死に心動かされ、ついに自らの出自を公にしてしまいます。父の戒めを破ってしまった丑松は周囲から疎外され、新天地を求めテキサスを目指して旅立ちます。
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千曲川のスケッチ
1899年から長野県の小諸義塾にて英語教師をしていた藤村が、小諸の美しさや人々の生活を「写生的」に描いた作品(写生文)です。「破戒」執筆に至る藤村初期の代表作とされ、詩から小説へと移行する中間点の作品となっています。この作品を発表した藤村は「情人と別るるがごとく」詩作と決別し、詩人・島崎藤村は作家・島崎藤村と移り変わります。
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夜明け前
「木曽呂はすべて山の中である」の書き出しで始まる本作は、島崎藤村の代表作であると同時に、日本近代文学における金字塔の一つとされています。旧家に生まれ、江戸に出て念願の国学者となった主人公・青山半蔵と、半蔵をとりまく人間模様を描く藤村後期の長編小説です。幕末の混乱、そして明治維新によって日本の近代化がもたらした変化が半蔵を通して語られます。なお、主人公・青山半蔵は獄中死した父・正樹がモデルとなっています。
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まとめ
島崎藤村の作品の特徴やおすすめ作品を紹介しました。実生活を赤裸々に表現する藤村の作風は、同時代の田山花袋や徳田秋声、正宗白鳥などに影響を与え、日本文学史に大きな功績を残しました。作品の生々しさに好き嫌いが分かれると思いますが、ひとたび作品を読むと「作者の追体験をしている」感覚が味わえてその作者と作品の両方に引き込まれます。藤村の作品をまだ読んだことがない方は、今回ご紹介した作品をきっかけに、藤村の人生を追体験してみてはいかがでしょうか。
>>島崎藤村ってどんな人?その生涯・家族は?性格を物語るエピソードや死因は?
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