吉本ばななのプロフィール。経歴は?家族は?作家としての評判は?作品の特徴及び評価。おすすめ代表作3選

出典:[amazon]私と街たち(ほぼ自伝)

美しく詩的な文体で、幻想的な独特の世界観をもち、日常のなかのたいせつなものに目をむける作品で、国内外に多くのファンをもつ吉本ばなな。
デビュー作『キッチン』で、今までにない透明感のある文体、新しい設定で新しい価値観などポストモダン的な感性を象徴的にえがき、若い読者層から圧倒的な支持を得ました。そして、デビューから短期間で出版した6冊の本すべてがベストセラーになり「吉本ばなな現象」と呼ばれるブームを巻きおこし、一躍注目を浴びます。
吉本の作品は、寓話のような独特な世界観で、死と生、意識と無意識などをテーマとしたものが多く、繊細な感情や気持ちの表し方、読みやすい文体が特徴的です。
今回は、現在も精力的な文筆活動をおこない、読者を魅了し続けている小説家・吉本ばななのプロフィールや作品の特徴、おすすめ作品などをご紹介します。

吉本ばななのプロフィール、経歴

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生い立ち

吉本ばななは、1964年7月24日、評論家・詩人の父・吉本隆明と母・和子の次女として、東京都に生まれます。本名は吉本真秀子(まほこ)です。
1967年3歳の頃、自宅にたくさんあった姉のマンガを手に取るようになり、没頭。藤子不二雄を愛読し『オバQ』『怪物くん』などの藤子氏の作品に強い興味をもってよんでいました。姉が絵を描くのが得意だったので「私は小説家だな」と思い、自然に作家を志します。吉本ばななの作家のスタート地点において「藤子がえがくような世界」と「手塚治虫がえがくような世界」の区分は大きく、彼女はアンチ手塚治虫にちかく、藤子不二雄派とのべていました。「この世はただでさえつらくて大変なのに、わざわざ作品にまでしてそんなこと書いてどうするんだ、っていうのが常に私のなかにあった」と吉本はインタビューで話しています。

1983年に日本大学芸術学部文芸学科に入学。そして1987年3月に、大学の卒業制作で執筆した「ムーンライト・シャドウ」が日大芸術学部長賞を受賞します。

作家デビューそして「ばなな現象」へ

同年11月にゴルフ場のバイトと喫茶店のウェイトレスをしながら書いた「キッチン」が、第六回「海燕」新人文学賞を受賞し、『海燕』に掲載され、作家デビューします。ペンネーム「ばなな」は、当時偶然自宅にあったバナナの赤い花が美しく「なんてすてきな(花なのだろう)」と思い、つけたそうです。本名をだれにも読んでもらえなかったので、覚えてもらえるような分かりやすい名前にしようと思っていたと述べています。

1988年1月に、「キッチン」とその続編「満月―キッチン2」そして、「ムーンライト・シャドウ」を収録した『キッチン』を刊行しました。すると、若い読者を中心に圧倒的支持を得て、大ベストセラーになります。かの吉本隆明の娘である吉本ばななの書籍がベストセラーになったことがメディアに大きくとりあげられ、「吉本ばなな現象」がこの時点ではじまりました。つづく4月に、「TSUGUMI」の連載を『マリ・クレール』で開始します。5月には、「うたかた」を『海燕』に掲載。8月に『うたかた/サンクチュアリ』を刊行し10月に『キッチン』で、第十六回泉鏡花文学賞を受賞します。12月、『哀しい予感』刊行し、この年(1988年)店がなくなったためバイトを辞め、作家のみでやっていくことを決心しました。
1989年2月『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で、芸術選奨文部大臣新人賞を受賞。3月に、初めての長編『TUGUMI』を刊行します。5月『TUGUMI』で第二回山本周五郎賞を受賞し、7月に『白河夜船』が出版されました。9月になると、初のエッセイ集『パイナツプリン』が発売され、10月には、映画『キッチン』が封切りされます。
そして『キッチン』以降出版された6冊すべての書籍がベストセラーになり、「吉本ばなな現象」として新聞や雑誌で取り上げられました。

1988年から1992年までの5年間でおよそ15作の、小説、エッセイ、インタビュー集、共著などが出され、彼女に対する注目は高まっていきました。『キッチン』につづき『TUGUMI』も早速映画化されます。

1994年になると、長篇『アムリタ』を出版し、この作品で1995年8月第五回紫式部文学賞を受賞。その後も、2000年3月には『不倫と南米』を刊行し、9月に本作で第十回文化村ドゥマゴ文学賞を受賞するなど、数多くのすばらしい著書を執筆しつづけました。

現在は、インターネット上のサイトnoteで配信されているメルマガをまとめた書籍を刊行し、SNSで近況などの情報発信をしています。そして、執筆活動を精力的に行い、世界中にいる多くの読者を魅了する作品を生み出しつづけています。

家族

父親は、評論家・思想家・詩人の吉本隆明で、母親は、俳人の吉本和子。7つ年上の姉・多子(さわこ)は、マンガ家のハルノ宵子です。また、事実婚のパートナー(ロルファーの田畑浩良)と、2003年生まれの息子がいます。

作家としての評判

 

吉本を見出した編集者の寺田博は「ばななは、現代の問題意識、雰囲気、テンポを見事に表現している作家」「無名の新人であっても、その種の作品は、向こうから訴えかけてくる」とのべています。

また、「キッチン」が「海燕」新人文学賞を受賞した当時、選考委員の富岡多惠子は「文章のすすみ具合が、昔のひとから見れば頼りなげにうつるとすれば、それは吉本さんにとっての文学が昔のひとのレシピでは料理できなかったからであろう」とコメントしていました。

文芸評論家・小説家の蓮實重彦は、一晩に二冊も読めてしまい、ことによると何か驚くべきことなのかもしれないなと思った、というようなことを述べています。また「言葉が自分自身が言葉であることを忘れてしまったかのようにして綴られる妙な透明さが特徴的(以下略)」「我々はその言葉を読まず、言葉の背後にあるイメージのほうだけで読んでしまう。」と語っています。

吉本ばななは、「キッチン」の文章は文法的に合っていないと海燕の受賞時に審査員に怒られた、というようなことをのべていました。「キッチン」は斬新な文体だったので、文壇に賛否両論があり、当時おおきな話題になります。
彼女の書き方には批判と称賛がありましたが、実際に多くの読者に読まれていました。大半の読者は、吉本の文は「一気に読めた」「スラスラ読める」と述べています。

吉本の小説は、いわゆるエンターテイメントではなく、狭義の純文学でもない「吉本ばなな」という新しいジャンルゆえに、熱狂的に支持されているのではないでしょうか。それゆえに反対派というような人が、とくにデビュー当時はおおくみられました。それは、新しいものに対する拒絶感がおおきかったからとも考えられます。
デビュー当時、『キッチン』を書いたころは日本の文壇の変わり目でした。日本の文学が変わりゆくなかで、吉本は今までにない新しいジャンルの小説を書いて、結果として世界に受け入れられました。
吉本ばななの本は30数か国以上の地域・国で翻訳・出版され、ベストセラーになりました。世界中で圧倒的に読まれ、かれらは吉本の作品に魅了されています。また、イタリアの文学賞であるスカンノ賞、フェンディッスィメ・アンダー三五文学賞などを受賞し、文学的な価値も高く評価されています。

吉本の作品は、無国籍のサブカルチャーが生んだ登場人物が物語をつむぐので、日本の伝統文化をあまり知らない人でも作品を楽しめるのです。吉本ばななは、イタリアで登場してすぐにアジアを代表する女性になりました。

作品の特徴及び評価

 

吉本ばななの作品は、詩的で美しいことばでつづられ、独特の世界観もちます。登場人物のキャラクターが変わっていて、非現実的で、死のふんいきが見えかくれしています。

デビュー作『キッチン』を発表した当時、独特であたらしい文体が革新的で注目されました。
吉本の作品は『キッチン』を起点として、ある意味でひとつのおおきな話がくりかえされているようにみえます。
『キッチン』では、近代家族の不在、両性を兼ねそなえた女ならぬ母、孤児感覚、生の原点としての食への視線など、ポストモダン的な感覚を象徴的に描いています。ヒッピームーブメントに影響されたこれまでの常識に縛られないポストモダンで、万人に共通する感情、気持ちや体感覚を丁寧に扱った繊細な書き方が印象的です。

純文学では、使ってはいけないとされているオノマトペを多く使用し、?や!などの記号もよくつかわれています。会話はその時の若者の話し言葉がかかれ、その時代の空気がかんじられます。少女マンガのような主人公の描写や、若者がふだん話す言葉を使用するなど、登場する人の性格や容姿・考え方、話の展開、名前、文体などが、マンガの表現方法のようです。また、一人称で書かれた文体も「少女マンガ的」で、読者につよい印象をあたえ、共感しやすいふんいきをつくりだしています。それまでにない新しい文体などが厳しい批評の対象にもなりましたが、このような発想、ことばの感覚が当時のマンガを読む世代の若者のこころをつかんだのではないでしょうか。

吉本は、『キッチン』以来若い人の日常にある、日常をこえたものの力を描いてきました。それは人の死、恋愛です。とくに盛り上がることのない淡々としたストーリーですが、読んだ人は深いところで癒されます。苦しみや苦痛などマイナスの要素もおりこまれていて、それにより読者は救われる感覚をもちます。

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よく扱われるテーマとして、人間関係、人生、目に見えない世界、超自然的なもの、孤独、身近な人々の死による喪失感、血縁に制限されない拡大された家族、心的外傷を癒す超能力・恋愛があります。
また、表にでないところでのコミュニケーションも表現されていて、霊的なコミュニケーションや、食をつうじた登場人物の意思疎通がえがかれています。
そして、身体に関する表現、つまり肉体的なものをふくめた感受性が熱心にえがかれているのも特徴です。

彼女の小説は、平明な物語ですが、その奥に人生の本質的な問いがあるふかいものです。
その時代の心の危機を象徴する、平明なストーリーを書いています。寓話にして、人々のこころを刺激しないように伝えたいことを表現し、作品中にえがいたヒントで、各自のちからで気づくよう促しています。

海外にもファンはおおく、イタリアの出版社の翻訳書担当部長は「文化や国境をこえた普遍性が読み手の心に響いている。イタリアにはない独特のふしぎな世界がえがかれていることが彼女の特別な人気をささえているのでは。日本の独自性と普遍性があり、魅力的。」というようなことを述べました。

また、吉本の書く文章は、彼女の気持ちを伝えることを最優先しています。
ハードルを設けていないような、すらすらとよみやすく透明感のある文体が、彼女が表現するイメージを鮮やかにつたえています。

幻想的な作品は、優しくあたたかで、繊細な感情や気持ちの表し方が独特です。
吉本は、悲しいことは誰の人生にも嫌というほどあるので書かない、というようなことをのべていて、彼女の書く物語は現実に対して肯定的で、最終的に希望がかんじられるものとなっています。

エッセイ作品も人気で、飾らず等身大の彼女を表現しています。

おすすめ代表作3選

キッチン

吉本ばななのデビュー作です。この作品で、海燕新人文学賞・泉鏡花文学賞を受賞しています。それまでにない新鮮な文体で、その時代の空気や、拡張した家族などポストモダン的感覚を象徴的にえがき、独特の世界観と個性的な文章が魅力的な物語です。少女まんが風の設定や言語感覚・発想で、心にしみこんでくるような透明感のある文体が親しみやすく、とくに当時の若い年齢層に受け入れられ、圧倒的な支持を得ました。

「私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う」という文章ではじまる、両親も代理母の祖母もなくし、天涯孤独になった主人公の物語です。女装して母親としていきる父と暮らす男友だちの家に居候し、あたらしい家族のなかで一時癒しの場所をもちます。主人公が、台所を基点として失った精神をとりもどし、再生していく日々が瑞々しくえがかれています。
美しく透明感のある文章は読みやすく、吉本ばななの原点ともいえる作品ですので、彼女の小説をはじめて読む方にもおすすめです。

吉本は、この世の流れから外れてしまってびっくりしてしまっている人たちを書きたかったと述べています。

本作に収録されている「ムーンライト・シャドウ」は、大学の卒業制作で執筆されたもので、2021年に映画化されています。

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TUGUMI

1989年刊行の初の長篇。本作で、第二回山本周五郎賞を受賞しています。ちなみにこの作品が1989年のベストセラー1位で、『キッチン』が2位でした。

大学生のまりあが海辺の故郷の旅館で、美しいけれど病弱で傍若無人の従姉妹のつぐみとすごした最後のひと夏の物語。
死がテーマとしてあり、まりあのつぐみへの温かなおもいや、つぐみの言動や心情、つぐみの恋人をとおしてのできごとなど、さまざまなことがつぐみの魅力をひきたてます。
ひと夏のせつない青春の一ページを、きらきらとした透明感あふれる魅力的な表現でえがいています。

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不倫と南米

取材旅行に行って制作した、世界の旅シリーズの三作目。すばらしい南米の写真、原マスミのイラストとのコラボレーションが、模索の果てに互いの魅力を引き出している作品です。
南米を舞台とした、不倫、夫婦に関する短編集。
軽やかな文章がすっと心に届き、淡々と進む非現実性のあるストーリーのなかに悲哀、儚さ、寂しさ、痛みなどさまざまな感情が感じられます。
それぞれが短い物語なので気軽に読めますし、美しく開放感のある文章が南米の鮮やかさや静けさなどをいきいきと伝えてくれる味わい深い作品です。
本作で、第十回ドゥマゴ文学賞を受賞しています。

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まとめ

いかかでしたか?今回は吉本ばななのプロフィールやおすすめ作品などをご紹介しました。
2021年に、大学の卒業制作で執筆した処女小説「ムーンライト・シャドウ」が長い時を経て映画化されました。たいせつな人をおもいがけず失う大学生の物語は、さまざまな出来事がおこっている今の時代にもつうじるものがあります。映画化されたすてきな作品もいろいろありますので、そちらを観てから小説をよむのも世界観にひろがりをかんじて楽しめるのではないでしょうか。

そっと気持ちによりそってもらいたいときや、元気をもらいたいとき、人生をみつめたいときなど、ぜひ彼女の作品にふれてみてください。
独特な世界観をもつ透明な文体は、読者をその向こうの鮮やかな世界に引き込み、気づきと癒しをあたえてくれる魅力があります。
半引退宣言をし、執筆活動に専念するとしている彼女は、書きたい物語の構想は書いてもかいても書き足りないくらい何年も先まであると述べていました。これからどのような素敵で、あたらしい世界をわたしたちに届けてくれるのでしょうか。
吉本ばななの作品は、さまざまなテイストのものが数多くあり、掌編といわれる短くすばらしい作品もありますので、今回の記事で興味をもっていただけた方は、気軽に一冊手に取ってみてはいかかでしょうか。

参考文献

  • 『本日の、吉本ばなな。』(2001)新潮社
  • アレッサンドロ・G・ジェレヴィーニ・よしもとばなな『イタリアンばなな』(2002)生活人新書
  • 塩澤実信(2009)『文豪おもしろ豆事典』北辰堂出版
  • 岩淵宏子・北田幸恵編著『はじめて学ぶ日本女性文学史【近現代編】』(2005)ミネルヴァ書房

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