出典:[amazon]坪内逍遥 名作全集: 日本文学作品全集(電子版) (坪内逍遥文学研究会)
坪内逍遙は、江戸時代の末期に生まれ、日本の近代文学の先駆者とも呼ばれる人物です。さたにシェイクスピアの全訳をするなどの偉業を成し遂げ、77年という生涯の中で、発表した作品は多くあります。
今回は坪内逍遙の作品の特徴や評価、おすすめ代表作をご紹介します。
坪内逍遙の作品の特徴及び評価と写実主義
ここでは坪内逍遙の作品の特徴や評価、逍遙が唱えた写実主義についてみていきます。
写実主義とは?
写実主義とは、社会の現実や事物の実際をありのままに描写しようとする立場であり、19世紀にロマン主義に対立するかたちで起こりました。フランスではじまりヨーロッパへ広がり、日本では明治時代以降の文学界を牽引したスタイルでもあります。日本で写実主義を取り入れ発展させた人物に、坪内逍遙、二葉亭四迷、尾崎紅葉などが挙げられます。この写実主義がさらに発展して自然主義が生まれていきました。
写実主義者の坪内逍遙と理想主義者の森鴎外との間に起こった「没理想論争」は有名で『早稲田文学』の中で繰り広げられました。森鴎外の理想主義は、作者の理想を作品に含めるべきだという正反対の意見を持っていたため、両者は相容れることなく決着はつかなかったと言われています。
坪内逍遙の作品の特徴と評価
それまでの日本の文学は勧善懲悪をテーマにしたものや政治小説、戯作文学が多かったのですが、坪内逍遙がそれらに疑問を呈して、小説はこうあるべきと写実主義を書いたのが『小説神髄』です。
この書の中で「小説の主脳は人情なり、世態風俗これに次ぐ」として、まず人間の感情を、次に社会の実態を書くようにと述べています。できすぎた物語ではなく、人間のありのままの姿を書こうと提唱したのです。
前半は写実主義的思想、後半は小説の技法が述べられています。『小説神髄』の理想を体現するお手本として『当世書生気質』を書き、当時の人々に驚きを持って受け入れられましたが、ストーリーは戯曲的な人情物に傾いてしまい、写実主義は不徹底という評価もあります。
この逍遙の後に続いたのが二葉亭で『小説神髄』を読んで感銘を受け『小説総論』と『浮雲』によって写実主義を進化させました。
坪内逍遙のおすすめ代表作6選
ここでは、坪内逍遙のおすすめ代表作をご紹介します。様々なジャンルの作品がありますので、お好きなものからチェックしてみてください。
小説神髄
文学とは何か、文学とはどうあるべきかなど、シェイクスピアをきっかけに西欧文学にのめり込んだ坪内逍遙が、日本に本格的な文学を紹介しようと書いた評論です。伝統的な勧善懲悪のストーリーや功利的な政治小説を否定して「写実主義」を提唱した内容で、近代文学の幕開けを感じられる内容となっています。
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当世書生気質
『小説神髄』において写実主義を唱えた坪内逍遙が、写実主義小説のお手本として書いたのがこの作品です。これは当時の学生のリアルな姿を描こうとしたもので、学生である小町田と芸妓田の次の恋愛を中心に、学問への意欲と恋心の間でゆれる小町田をはじめ、個性的な登場人物の感情が生き生きと描かれています。また吉原の遊郭、牛鍋屋、温泉など東京の姿やユーモアの混じった人物同士の会話も楽しめるでしょう。坪内逍遙が東京大学在学中に、市島春城、石渡敏一などと神保町の天ぷら屋に通ったことも題材になったそうです。日本近代写実小説の第1作目と評される作品です。
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ザ・シェークスピア―全戯曲「全原文+全訳」
全戯曲が原文と坪内逍遙の全訳とともに楽しめる1冊で、1000ページを超えるボリュームがあります。訳文といっても、明治時代の言葉であるため読みづらさはありますが、坪内逍遙が全て訳したという偉業を感じながら読むことができますね。
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細君
こちらは坪内逍遙の最後の小説作品です。両親のいない14歳の少女お園が、裕福に見える下宿屋に奉公に出されますが、その家の主人は女にだらしなく家におらず、手切れ金のために借金をするため、借金取りが押しかけてくる始末。さらに少しだけ学のある夫人は愛嬌がなく陰気な様子で、ややこしい親族も登場し、救いようのない展開も…。新しい男女の姿を写実的に書くことに挑戦した書という評価もあります。
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桐一葉
新しい歌舞伎劇を目指した坪内逍遙が書いた脚本です。関ヶ原の戦い直後の豊臣家の混乱をテーマとして、豊臣家の忠臣片桐且元の苦渋を描いています。片桐且元は、豊臣家を滅ぼそうとする徳川家との交渉役であり、見方の豊臣家からもあらぬ疑いをかけられるなど苦しい立場にいる人物です。
この脚本は第6幕まであり、『沓手鳥孤城落月』はこの続編となっています。
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役行者
山岳信仰である修験道の開祖、役行者小角の伝説をもとに描いた作品で、一言主と女怪という荒神が人々を困らせていたところ、役行者によって力を封印されていました。そこに行者の母が尋ねてきたり、行者の弟子の廣足が気絶して運ばれてきたりと事件がおこります。哲学的で深い内容でもあり、明治大正の戯曲界の最大傑作ともいわれています。
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まとめ
いかがでしたか?日本にはじめて写実主義を持ち込み、伝えようとした坪内逍遙。不徹底という評価もありますが、二葉亭四迷や次の世代へと受け継がれ、日本近代文学に与えた影響は大きなものでした。
小説の他にもシェイクスピアの全訳や歌舞伎新劇の作品がありますので、時代を切り開いてきた雰囲気を感じながら様々な方向から楽しめる作家ではないでしょうか。
>>坪内逍遥ってどんな人?その生涯や妻は?性格を物語るエピソードや死因は?
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