出典:[amazon]森茉莉 私の中のアリスの世界 (人生のエッセイ)
森茉莉は、昭和後期に活躍した随筆家・小説家で、翻訳もしています。父は小説家・軍医の森鷗外です。華麗で幻想的な表現力と、鋭い洞察力で独自の世界観をもち、今なお彼女の作品には人気があります。
裕福な家庭に育った茉莉でしたが、作品を書くようになったのは、50歳をすぎて父の著作権が切れ、生活のため必要に迫られてのことでした。
明るく自身の貧しい生活を描いたり、空想の中で自分の好きな美しい世界に暮らしていたり、彼女のつむぐ文章には楽しさと浮遊感のある夢幻的な雰囲気があります。
そんな森茉莉の作品にはどのようなものがあるのでしょうか?今回は、森茉莉の作品の特徴やおすすめ代表作をご紹介します。
森茉莉の作品の特徴や評価
森茉莉は、耽美で幻想的、そして華やかで美しい表現を得意としました。また、鋭い審美眼をもち、歯に衣着せぬ表現で世の中のできごとを批評しています。
若き日に暮らしたパリでの生活が、作品をつくるうえでの世界観に大きな影響を与えました。文体にヨーロッパをかんじさせる雰囲気があり、日本ではないどこか他の国のはなしであるかのような、ふしぎな魅力をかもしだしています。また、美しい一文一文は彼女の感性で、こだわりをもって作り上げられています。現実をこえた浮遊感をもつたのしい世界に連れて行ってくれるような、美しく趣向をこらした文体です。
また、子どもらしい感性を生涯もちつづけていて、それが茉莉の作品の魅力となっています。
50歳を過ぎてから執筆し始めた茉莉には、多くの作品が残されているとは言えませんが、独特の感性でどれもつよい印象を残しています。
三島由紀夫は、『恋人たちの森』を読み、「貴方は文学の楽園に住んでをられます」とのべました。また「森茉莉しか使えないことばをつかいながら、わざとこんがらからせながら、結局見事に明晰に描いていきます。」というような内容で称賛しました。
一文が長く、どこに言葉がかかるのかわかりづらく、読みにくいと感じるところもあります。また「~なので、ある」という書き方をするなど、独特な句読点の使い方をしています。全体よりも部分に重点が置かれた文章で、均衡をたもつことよりも、細部を装飾的に作り上げる傾向にあるのが特徴です。全体のバランスをかんがえると、読みづらい部分がありながらも、茉莉の作品には輝きがあり、ひきつけるものを感じます。
おすすめ代表作5選
贅沢貧乏
幻想的で独特な表現を用い、鋭い視点でその時代を批評した随筆集です。また、随筆のみならず短い小説のような、幻想的な話も収録されています。
茉莉が暮らした倉運荘の毎日をもとに、文芸雑誌「新潮」に57歳のとき書いた作品です。
お金をかけずに贅沢をすること、すなわち「貧乏な贅沢」がかかれたものです。お金をかけずに贅沢をすることの、楽しさやゆたかさが伝わってきます。また、茉莉が世間に対して考えていたことも鋭い目線で書きました。
貧しい自分の生活を嘆くのではなく、華やかで美しいものと暮らしを楽しんでいると想像力をはたらかせることが、ほんとうに豊かで贅沢なのだといいます。
貧乏くささを嫌った茉莉は現実からはなれ、独自の感受性でこの作品をつくりあげました。
明るい貧乏な話で評判になり、これ以降原稿依頼が増え、休みなく原稿を書くようになります。
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父の帽子
父・森鷗外との思い出をかいた随筆集です。この作品で、日本エッセイスト・クラブ賞を受賞し、茉莉は文壇にデビューしました。
帽子を買う際に、頭がかなり大きかった鷗外が店主から笑われたエピソードなど、文豪である父の、家族だからこそ知りえているエピソードが書かれています。
父母に愛され、父とすごした蜜月のような暮らしや、実家での裕福な暮らしをふんだんに描いています。筆舌を尽くし、父への強い愛や父のすばらしさを語った作品。美しい文章が並び、茉莉の原点ともいえる一作です。
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私の美の世界
茉莉が考える美とはなにかが、純度高く語られたエッセイ集です。食いしん坊の茉莉らしい、美しい文章で書かれた美味しいものの話、おしゃれ、批評などテーマは様々です。
贅沢というのは、贅沢な精神をもっていることで、高価なものをもっていることではなく、中身の人間が贅沢でなくてはならないとも書いています。
ささやかな衣食住のなかで、過ぎてゆく美を生き生きとした感受性でとらえ、日常のちいさなたのしみを描きました。
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甘い蜜の部屋
美しいモイラという少女の、悪魔のような魅力によって、男たちが翻弄され展開していく物語です。モイラには、不思議な心の中の部屋があるといいます。豊かな家庭で、一心に父の愛を受けて育った彼女は、心の中で父とふたりの蜜のような甘い愛の部屋にくらしていました。
三島由紀夫が「官能的傑作」と褒めたたえた、美しい文体で描く大長編。10年をかけて執筆され、茉莉が72歳のとき刊行された作品です。1975年に、泉鏡花文学賞を受賞しています。大正時代を背景に、独創的な感性で幻想的世界を構築した、茉莉の理想が描かれたような、彼女の生涯で唯一の長編小説です。
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恋人たちの森
愛する青年と、愛される少年の、耽美で退廃的な世界観をもつ小説です。茉莉はこの作品で、第二回田村俊子賞を受賞しています。
この作品は、アラン・ドロンとジャン・クロード・ブリアリの映画、そしてふたりが寄りそってうつっている写真を茉莉がみていたときにできたものです。茉莉があれこれ空想していると、ふたりが目の前にいるかのように演技してみせてくれ、彼女が感動している間にできあがった小説だと語っています。
この小説は、粋な恋愛の恐ろしさときれいさを表現したものだと茉莉は述べていました。
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まとめ
「夢をみることが私の人生」と、よく通っていた喫茶店にかざられている色紙に森茉莉はかいています。
そのことばのように、現実の中だけで幸福だというのではなく、じぶんの好きな美しいもので満たされた空想の中で、茉莉は豊かな日々をたのしんでいたのではないでしょうか。
高価なものをもっていることではなく、贅沢な精神をもっていることが贅沢だといっていた茉莉。本音居子とお墓に刻んでほしいというほど、自分にとっての本音でいきることも大切にしていたようです。
今回の記事で少しでも興味をもった作品がありましたら、一冊手に取ってみてはいかがでしょうか。
そして、ものがあふれる現代、自分にとってのほんとうの豊かさやしあわせとはどのようなものかを、森茉莉の作品を読みながら、考えてみるのもよいのではないでしょうか。
>>森茉莉ってどんな人?その生涯や息子は?性格を物語るエピソードや死因は?
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