アレクサンドル・プーシキンの作品の特徴及び評価。おすすめ代表作3選

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ロシア文学の近代化を図り、近代文章語を確立した立役者として知られるアレクサンドル・プーシキン(17999-1837)。代表作には「スペードの女王」や「エフゲニー・オネーギン」などがあり、オペラ化やバレエ化された作品も少なくありませんが原作を読まれたことがある方はどれぐらいいるのでしょうか。

今回はアレクサンドル・プーシキンの作品の特徴、その評価について、代表作も含め、ご紹介してきます。

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アレクサンドル・プーシキンの作品の特徴及び評価

プーシキンの作品は、それまでロシア文学を牛耳っていた貴族文学を覆し、民衆文学を構築しました。

アレクサンドル・プーシキンの作品の特徴

プーシキンの作品についてまず特筆すべきは、彼の作品に表れるヒューマニズムでしょう。
貴族や農民といった階級に限らず、すべての人間の尊厳と自由への権利を主張する場面を作品中に読み取ることができます。
これは、プーシキンが文学を高い使命を持った需要な国民的事業と位置付けていたこと、自己の作品の中に国民の思想と感情を表現することに心血を注いでいたことからも分かります。

よりロシア民衆の声を作品中に反映するために彼が用いた民衆語や日常語は、美しく平明な文章語を完成し、より読みやすい文学を確立したのです。

アレクサンドル・プーシキンの作品の評価

プーシキンの功績は、貴族文学の域を打ち破り、ロシア文学を国民文学の域に広げたことにあります。

それまで貴族文学として、ロシアの文学は非常に高尚なものでなくてはいけないという暗黙の了解がありました。
そのため、それまでのロシア文学は全て韻文で書かれていたのですが、プーシキンはここに限界を感じます。本当に自分が表現したいことは韻文では書けない、むしろ散文で表現しなくてはならないと気が付きます。当時、散文は民衆が語るものという認識があり、上流階級の人間が使用するようなものではないと思われていたのです。

プーシキンは自分の両親が社交界ばかりに関心を向け、自分には一切愛情を示さなかったことをトラウマとしていることもあって上流階級、特に社交界には常に批判的でした。
こういう背景もあり、プーシキンが散文を自身の作品に取り入れるのに時間はかかりませんでした。

懐疑古典主義の格式や感情主義の思わせぶりな用語で文章を飾りたてるのでなく、民衆語や日常語を使うことで、文章にリアリティさをもたせることに成功したのです。

プーシキンによる貴族文学の打破はその後の文豪(ゴーゴリーやドストエフスキー、トルストイ、チェーホフなど)に多いなる影響をもたらしたことはいうまでもありません。
逆にいえば、プーシキンが散文という手段を見いだせなかったとしたら、ロシア文学の近代化はかなり遅れたことでしょう。
ドストエフスキーのような人間臭い文を書く人も登場しなかったかもしれません。

アレクサンドル・プーシキンの代表作3選

ここでは、プーシキンの代表作を3つ厳選してご紹介していきます。

韻文小説「エフゲニー・オネーギン」(1825-1832)


南ロシアに追放され、バイロンを読み漁っていた後に書き始めたのが、プーシキンのあまりにも有名な「エフゲニー・オネーギン」です。
一時はバイロンに熱を上げ、崇拝していたプーシキンですが、バイロンが陰気で傲慢、自分本位な男であるということを彼の詩から見抜いたプーシキンは、この滑稽な男性像をそのままエフゲニー・オネーギンという男に投影し、対するヒロインにロシアの美徳を詰め込んだのです。そして傲慢さに美徳が打ち勝つ様を書き連ねたのです。

若くて金持ち、軽はずみなオネーギンは、自分の外見を気にして3時間も舞踏会の準備に費やす放蕩者。そんなオネーギンに恋する貴族の田舎娘タチヤーナは、来る日も来る日もオネーギンに恋文をしたためますが、一向に見向きもされません。オネーギンはむしろタチヤーナの妹に言い寄る素振りを見せ、その婚約者と決闘沙汰を起こし、相手を死に至らしめます。
数年後にモスクワの社交界でタチヤーナと再会したオネーギンは、立派な貴婦人に成長したタチヤーナに恋し、告白するも、人妻となったタチヤーナに拒絶されるのでした。

この小説は、ロシア初の韻文小説であり、「オネーギン・スクンザ」と呼ばれる形式で書かれています。この形式は非常に翻訳しにくいことでも知られ、翻訳者泣かせの一冊でもあります。
また、第10章には暗号化された四行詩があったといわれていますが、デカブリストの乱が起きたため、証拠隠滅のために失われたとも言われています。

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短編小説「スペードの女王」(1833)

この作品は、出版と同時に高い評価が付いた作品で、かのドストエフスキーも大絶賛しています。
カルタ(ギャンブル)に興じる人々の行く末、滑稽さを見事に描き切りながら、その中のヒューマニズムにも触れた逸品なのです。

青年たちはカルタ遊びに興じていますが、その中で一人お金をかけずに、ただカルタの行方を見守る青年がいました。彼の名はゲルマン。ゲルマンの友人は自分の祖母はカルタで絶対に勝てる必勝方法を知っており、それで全財産を取り戻したことがあるといいます。ゲルマンは彼女に必勝法を教えてもらおうとして、誤って死に至らしめてしまいます。夢枕で彼女の霊に必勝法を教わったゲルマンは早速カルタ名人に勝負を挑み、2日連続で勝ちますが最終日に裏切りにあいます。ここで自分の罪深さに気付いたゲルマンは精神を崩壊させるのでした。

賭け事の依存性や毒性が見事なまでに反映された作品と言えるでしょう。
こんな人間臭い作品こそプーシキンの描きたかったものなのです。

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叙事詩「ルスランとリュドミーラ」(1820)

この作品はプーシキンの出世作であり、世に名を知らしめて一作です。
ロシア民話からインスピレーションを得た気軽な冒険ファンタジー詩でもあります。

同名のオペラはグリンカによって作られており、この序曲はかなり有名なことでも知られています。

ストーリーは、悪魔に捕まったリュドミーラ姫を勇士ルスランが救いに行くという話です。道中に仕掛けられた罠や魔法の誘惑に邪魔されつつも、ルスランが姫を救い出すという流れで、よくあるファンタジー冒険ものと類似点も多く指摘されます。

この作品でもすでに民衆語を使い始めており、物語性に奥行きが出ています。

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まとめ

散文の使い手、プーシキンの作品について解説してきました。

今回ご紹介した3作品「ルスランとリュドミーラ」、「エフゲニー・オネーギン」、「スペードの女王」はいずれも同名のオペラ作品、バレエ作品にもなっています。
オペラやバレエは知っているという方も多いかと思いますが、ぜひ原作もこの機に読んでみてはいかがでしょうか。

ロシア国民の人間臭さがよくよく伝わってくる作品ばかりなので、ロシアの貴族社会について全く知らなくても問題ありません。

トルストイやドストエフスキーなどのロシア文豪をうならせた作品をご堪能ください。

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>>アレクサンドル・プーシキンってどんな人?その生涯は?性格を物語るエピソードや死因は?

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