夏樹静子の作品の特徴及び評価。おすすめ代表作4選

出典:[amazon]ミステリーの女王 夏樹静子と福岡

専業主婦から「ミステリーの女王」とまで呼ばれるようになった作家・夏樹静子。生涯で300以上もの作品を執筆した夏樹静子は、本格ミステリーから社会派の作品まで幅広いジャンルを手がけました。「天使が消えてゆく」で作家デビューし、日本の女性推理小説家のパイオニアとして、生涯にわたり第一線で活躍し続けた夏樹静子の作品にはどのようなものがあるのでしょうか。今回は夏樹静子の作品の特徴を、おすすめ代表作を交えながら紹介します。

夏樹静子の作品の特徴や評価について

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本格ミステリーから家族をテーマにした作品など、幅広いジャンルを執筆した夏樹静子の作品にはどのような特徴があるのでしょうか。

女性心理の機微を捉えた作品

夏樹作品の特徴としてあげられるのは、「女性目線の卓越した観察眼」と登場人物の「心の流れを表現」した点です。例えばデビュー作「天使が消えていく」では、主人公の亜紀子の他に、育児放棄で娘を煙たがる志保の視点を通して物語を展開することで、それぞれの女性が抱える「心にポッカリと空いた穴」を巧みに描写しています。物語全体としてはミステリーでありながら、それと同時に女性心理を代弁する手法は夏樹静子独自の手法と言えるでしょう。

社会問題を背景として

1990年代から、夏樹は社会問題を積極的に取り上げます。近年、ますます深刻化している日本社会の「高齢化」をテーマにした「白愁のとき」や、死刑判決の是非を主題とした意欲作「量刑」。さらに裁判員裁判制度に関わる人々の心の機微を精緻に描いた「てのひらのメモ」など、晩年になるにつれ、夏樹の作風はより現実に即した「私たち自身の問題」をリアルに描くようになりました。

夏樹静子のおすすめ代表作4選

おすすめ代表作を紹介します。夏樹静子の作品の多くがテレビドラマとして放送されています。

天使が消えていく

江戸川乱歩賞最終候補となり惜しくも大賞は逃したものの、この作品により夏樹静子は作家デビューとなりました。ミステリーでありながらテーマは「母親の母性」であり、作者自身が長女を胸に抱いた時の強い感動が作品に投影されています。

雑誌「婦人文化」の記者・砂見亜紀子。亜紀子はさまざまな分野で活躍する女性を紹介する取材のため、ある女医を取材します。そして亜紀子は取材を通して、生まれつき心臓に障害のある生後3ヶ月の女の子・神崎ゆみ子を知ります。ゆみ子の母・志保は「望まない出産だった」としてゆみ子を邪険に扱いますが、ゆみ子は志保を慕い続けます。2人の関係を心配した亜紀子は、邪魔者扱いされながらも志保とゆみ子の元に通い続けているうちに、事件に巻き込まれていきます。

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Wの悲劇


1982年、光文社カッパ・ノベルスで出版された本格ミステリーです。日本有数の製薬会社、和辻薬品の会長が所有する山中湖畔の別荘が舞台となっています。

和辻一族の摩子が、あることがきっかけで会長の与兵衛を殺害してしまいます。一族は摩子を庇うために偽装工作を企て警察の目を逸らしますが、摩子とその一族は次第に追い詰められていきます。やがて摩子は逮捕され、一件落着と思われたのですが・・・。

この作品はアメリカのミステリー作家エラリー・クイーンが執筆した「Xの悲劇」、「Yの悲劇」、「Zの悲劇」のオマージュとして執筆された作品で、タイトルの「W」とはXYZに続く未知数を表しているそうです。1984年に映画にもなっており、またテレビドラマとして何度も放送された夏樹の代表作です。ちなみにこの作品を執筆するにあたり、夏樹はエラリー・クイーンにきちんと承諾願いを出したと言われています。

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そして誰かいなくなった


タイトルでピンと来た方も多いと思います。この作品もアガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」のオマージュとして執筆されました。原作は「絶海の孤島」を舞台としていますが、本作は湘南・葉山から沖縄へ向かう豪華クルーズ船が舞台となっています。

船のオーナーからの招待客は、会社役員秘書、エッセイスト、弁護士、医者など職種もバラバラで、一見すると接点が見当たりません。クルーズ初日の夜、船内に<裁判官>を名乗る人物からアナウンスがあり、招待客の全員の罪が告発されます。一同は「そして誰もいなくなった」になぞらえた悪戯だろうと安堵しますが、翌日、1人の遺体が発見されたことをきっかけに、1人、また1人と謎の死を遂げます。

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てのひらのメモ


裁判員制度をテーマとした夏樹静子渾身の「法廷もの」です。2009年に出版され、2010年にテレビドラマ化された、晩年の夏樹静子を代表する作品でもあります。また、丹念な取材に基づく内容と、福岡地方裁判所委員会を務めた夏樹自身の経験が反映された、ドキュメンタリー的要素も多分に含んだ作品です。

主人公・折川福美は子育てを終え、夫と2人暮らしの専業主婦。そんなごく普通の福美は、ある日補填裁判員に選ばれます。戸惑いを覚える福美でしたが、6歳の息子を家に放置したとして、保護責任者遺棄致死の罪に問われる種本千晶の事件に関わることで、次第に自分の考えに変化が生じます。果たして裁判員達は事件をどのように判断するのでしょうか。

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まとめ

いかがでしたか?今回は夏樹静子の特徴や作品を紹介しました。有名作品を集めましたので、読んだことのある作品が入っているかもしれません。夏樹静子の緻密な筆致と重厚なプロット、そして描かれる登場人物は臨場感に溢れており、読んでいると作品に引き込まれる錯覚に陥ります。今回の内容を知った上で改めて作品を読み返すと、また違った作品の楽しみ方が見えてくるかもしれませんよ。

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>>夏樹静子ってどんな人?その生涯・家族は?性格を物語るエピソードや死因は?

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