出典:[amazon]『チェーホフ作品集・28作品⇒1冊』
アントン・パブロヴィチ・チェーホフ(1860-1904)はロシアの文豪で、「桜の園」の作者としてよく知られています。しかし、同時代の文豪トルストイやドストエフスキーと比べるといまいち作家の個性というものが分からないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、アントン・チェーホフとはどういう人物だったのか、性格やちょっとしたエピソードなども交えてご紹介していきます。
アントン・チェーホフの生涯について
アントン・チェーホフは作家として広く知られていますが、実は医師として、慈善活動家としての顔も持ち、様々な場面で活躍した人物でした。
農奴出身の一家の元で育つ
チェーホフは南ロシアのアゾフ海岸の港町タガンログに、アントン家の三男として生まれます。祖父は農奴上がりで、3500ルーブルを支払って一家の自由を得た過去がありました。父親は商売人をしていましたが、チェーホフが少年の時に商売が傾き、モスクワの貧民街に一家は引っ越さざるを得なくなります。しかしこの時、勉学に励んでいたチェーホフだけは故郷に残り、家庭教師などをしながら卒業まで勉強を続けました。
医学部生と作家活動
1879年、チェーホフはモスクワ大学の医学部に入学したのをきっかけに、家族と合流し、モスクワで新たな生活を始めます。同時に文筆活動も始め、翌1880年には作品が雑誌「とんぼ」に掲載されています。そこから「目ざまし時計」、「娯楽」などのユーモア雑誌にアントーシャ・チェホンテの名で寄稿するようになります。
この時代、チェーホフにとって文筆活動は家族の生活を助ける一手段でしかありませんでした。そのため、1年間で129編の短編を書くなど、質より量の文筆活動を続けていました。このことから、1880年代は「チェーホフの乱作時代」などと言われることがあります。
作家として
上記の乱筆は長くは続きませんでした。「才能の無駄遣いをしないように」という文豪グリゴローヴィチからの戒めを受け、チェーホフは表現や用語など、今一度自分の文章力を見直すきっかけを得ます。これによって、チェーホフはより洗練された作品作りを目指すようになり、「さまざまな物語」(1886)や「たそがれに」(1887)で作家としての地位を確かなものにしていきます。
1890年代に入ると、それまで多く執筆していた短編や小品から中編小説、長編小説へシフトしました。より大きなテーマを取り上げた作品を発表するようになります。
実際にサハリンに出向き、そこで囚人の生活や島の様子などを3か月かけて観察し、それを元に発表した「シベリア旅行」、「サハリン島」などもこの頃に書かれています。
晩年
チェーホフは1892年にメーリホヴォに移住し、医師として活動を続ける傍ら、戯曲という新しいジャンルに挑戦します。「かもめ」、「ヴァーニャ伯父さん」というチェーホフの二大戯曲が作られたのはこの頃です。
戯曲家としての新たな一面をもって活動の場を広げようとしていた矢先、医学生の頃から患ってきていた喀血(かっけつ)の症状が悪化。クリミア半島に引っ越し、療養しながら作家活動を続けることになります。
また、同時期にモスクワ芸術座の女優オリガ・クニッペルと結婚(1901年)。しかし、妻はモスクワで仕事があったので別居婚状態だったようです。
1903年に最後の戯曲「桜の園」を発表したチェーホフは、いよいよ寝たきりの状態になり、翌年1904年44歳の若さでこの世を去ります。死因は腸結核でした。
チェーホフと社会事業
あまり知られていないことですが、チェーホフは社会事業活動に対しても非常に熱心でした。ここではチェーホフが行っていた社会事業活動のエピソードをご紹介します。
1891年~1892年
1891年の秋にロシアは大飢饉に見舞われます。医師として比較的裕福な身だったチェーホフは難民救済のために募金活動を熱心に行うなど、社会事業に参加します。
翌1892年にはヴォロネージ県を視察し、昨年の大飢饉の影響をまざまざと見せつけられます。飢えに迫られて馬を手放す農民のために、馬の買い上げ機関を設けようと奔走し、募金活動にも尽力しました。
1896年~1897年
1896年、メーリホヴォに近いターレシ村に、自らの私財を投じて小学校を建てます。同じ年、自分の生まれ故郷であるタガンログの市立図書館に多数の書籍を寄贈しました。
翌1897年にも再び私財を投じて近隣の村に小学校を建てています。
こうした社会事業を見るに、チェーホフがいかに学問、教育を大切にしていたかがうかがえます。
まとめ
短い生涯の間に医師として、作家として、また慈善活動家(社会事業家)として活躍してきた文豪チェーホフについて解説してきました。チェーホフは非常に頭の回転が速い人物だったのでしょう、医学生として勉学に励みながら1年間のうちに100を超える短編を執筆するという驚異の文筆速度は、前にも後にも例を見ません。
改めてチェーホフという人物を知った上でチェーホフの作品を読み返してみると、新しい発見があるかもしれません。チェーホフの作品は短編が多く、短時間でさらっと読めるものがほとんどなので、気になる方はぜひ一編読んでみてください。
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