出典:[amazon]正宗白鳥 名作全集: 日本文学作品全集(電子版) (正宗白鳥文学研究会)
正宗白鳥は1904年に『寂寞(せきばく)』でデビューしましたが、実際に評価を得たのは1907年に発表した『塵埃(じんあい)』だったと言われています。その後、『何処(どこ)へ』『泥人形』などの作品を発表し、自然主義作家として認められました。また、学生時代から執筆を始めた評論でも、高い評価を得ています。独特かつユニークな評論は「私評論」と呼ばれ、正宗白鳥唯一無二のものです。
正宗白鳥の小説の特徴は、人生に対する虚無感と、客観的な視点です。冷徹にも思われる整った文体で、人間の心理を鋭く描いています。
日本ペンクラブ創設にも携わり、2代目会長を務めた正宗白鳥。1950年に文化勲章、1957年に菊池寛賞、1960年に読売新聞社賞を受賞するなど、その功績は広く認められています。
正宗白鳥のおすすめ代表作4選
寂寞
~正宗白鳥のデビュー作。真面目に生きるって、さびしい~
1904(明治37)年に発表された、正宗白鳥のデビュー作です。画家として大成すること、素晴らしい作品を描くことを夢見て、不器用な努力を続ける青年・沢谷。一方、天性の美貌と要領の良さで器用に世渡りしていく、沢谷の友人・湯本。コツコツ積み上げてきた沢谷の努力が報われそうになったとき、沢谷の心に浮かんだのは、喜びではなく寂しさでした。人間の良心を信じ、仕事に打ち込むことが美徳だと信じていた青年が人生に懐疑的になっていく様子に、胸が苦しくなる作品です。真面目に努力している自分より、不真面目で人たらしの友人のほうが、楽しそうなのはなぜだろう。何かに打ち込んだ経験のある人なら、身に覚えのある感情なのではないでしょうか。
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入江のほとり
~入江から出ていく?入江で見送る?6人兄弟それぞれの生き方~
1915(大正4)年に発表された、瀬戸内海に面する村の旧家が舞台の小説です。ある日、東京にいる長兄から村に残っている兄弟に向けて、近々帰省するとのハガキが届きます。東京で学問を続ける者、東京で学んだ後、地元で立派に働く者、東京を夢見る者…。兄の帰省を通して、同じ家に生まれた兄弟6人の人生の小舟が揺れ動くさまが描かれています。兄弟の中で一番生き方が不器用な辰男は、若くして亡くなった白鳥の弟・律四がモデルだと言われています。入江を見晴らしたとき、そこにいる全員が同じものに心動かされるわけではありません。辰男の生き方をどう思うかで、自分自身の価値観に気付かされます。また、東京で学問を修めたい妹・勝代に対する家族の意見など、古い価値観と新しい価値観がゆるやかに入れ替わっていく時代の人々の考え方が興味深い作品でもあります。
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人を殺したが…
~良くも悪くも、誰も自分を認めてくれない!異色のミステリー小説~
人生につまずき、療養生活を送っていた保。世間の目が気になり、友人との交流も少なくなっています。ある日、数少ない友人のひとり・森山から、資産家の男性・渡瀬がもうすぐ亡くなりそうだと聞きます。実は渡瀬の妻・とき子は、保とただならぬ関係にあった美女で…。渡瀬の死後、とき子を助けるために殺人を犯してしまった保でしたが、誰も保を疑おうとはしません。保の性格や腕力では人殺しなどできないと、取り合おうともしないのです。自分は本当は力があるのに…と、満たされない気持ちを抱える保。やがて力を見せつけるかのように、第二の殺人も計画しますが…。保は正気なのか、狂気に吞まれてしまったのか。この作品の怖さは、殺人という行為にはありません。高い学歴をもち、しっかりしていると思われた保が「本当の自分はこんな程度ではない」「誰も自分を認めてくれない」という気持ちのあまり、次第に「信頼できない語り手」となっていくさまに背筋が凍ります。
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文壇五十年
~あの事件を、正宗白鳥はどう見ていた?文学的自叙伝~
大学在学中から島村抱月に師事し、批評を執筆していた正宗白鳥。83歳で亡くなるまで、精力的に執筆活動を続けました。『文壇五十年』は、そんな正宗白鳥が1954年に発表した評論です。尾崎紅葉や夏目漱石、森鴎外について。菊池寛や芥川龍之介など、若い世代の出現について。数々の戦争について。新劇や文芸の批評だけでなく、当時の事件や巷の空気をどのような気持ちで受け止めていたのかが描かれています。端正かつ理路整然でありながら、複雑な心理がにじみ出る文体が魅力的です。一見冷たい文章の奥に、正宗白鳥の体温を感じることができます。
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まとめ
今回は、正宗白鳥の小説・評論のなかから、おすすめの4作品をご紹介しました。今回ご紹介した作品のほかにも、代表作『何処へ』や、読売新聞社賞受賞作『今年の秋』など、正宗白鳥には魅力的な小説が多くあります。評論にいたっては白鳥独自のまなざしが面白く、すべておすすめと言っても過言ではありません。あまりにも整った文章で理路整然と人生の虚無が語られるため、一見とっつきにくい印象の正宗白鳥の作品。しかし読み進めていくうちに、作品の奥にある不思議な温かみに魅了されるはずです。
>>正宗白鳥ってどんな人?その生涯や家族は?性格を物語るエピソードや死因は?
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