久米正雄の作品の特徴及び評価。おすすめ代表作4選

出典:[amazon]久米正雄伝 微苦笑の人

明治に生まれ、大正・昭和と活躍した作家久米正雄。夏目漱石に才能を認められ、漱石門下となった久米は、実生活を元にした小説や、エッセイ、俳句などを発表し、さまざまな分野で作品を残しました。友人だった芥川龍之介などと違い、読まれる機会は少ないようですが、残された作品には素晴らしいものが多くあります。そこで今回は、久米正雄の作品の特徴や、おすすめ代表作を4つご紹介します。

久米正雄の作品の特徴や評価

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久米正雄は少年時代から文才を発揮し、中学生のころからすでに俳句に親しんでいました。おもに大衆小説で広く認知を得た久米ですが、三汀(さんてい)という俳号を持つ俳人としても知られています。

学生時代は芥川龍之介や菊池寛らと、第3次・第4次「新思潮」に参加し、「新思潮派」に属する作家として大正時代の文壇に新しい流れを生み出しました。新思潮派は、自然主義文学や白樺派の次におこった文芸流派で、現実を理知的に観察し、物語の構造を組み立てていくところが特徴です。そのような意味で、久米正雄は「新思潮派」の代表者の一人といえるでしょう。

また、初期の久米作品は「耽美主義(たんびしゅぎ)」的(※1)傾向が強いのが特徴で、その点も芥川龍之介などと同じく「芸術のための芸術」を目指している力強さがうかがえます。

中・後期になると、久米は大衆小説(通俗小説)を執筆し、広く一般に受け入れられるようになります。とくに漱石の娘・筆子との恋路を元にした「破船」(はせん)は、多くの人に読まれ大衆小説家としての久米の地位を確立しました。また大衆の人気を獲得した久米作品は、映画やテレビドラマなどでたびたび映像化されています。

鎌倉に移住後は、貸本屋「鎌倉文庫」の社長や東京日日新聞(現毎日新聞)の学芸部長に就任するなど、活躍の場を大きく広げました。

※1、耽美主義とは、19世紀後半にイギリスやフランスで始まった芸術運動で、「芸術のための芸術」をモットーに、美しいものの創造を芸術の唯一の目的とする思想です。

久米正雄のおすすめ代表作

久米正雄のおすすめ代表作をご紹介します。有名なものから手軽に読める短編作品もありますので、ぜひ読んでみてください。

破船

1922年から1933年にわたって連載された作品です。文学史上でも有名な、久米正雄自身と、夏目漱石の娘「筆子」との破局エピソードを元に書かれた作品です。

主人公の小野は恩師・勝見の娘である冬子に恋をします。しかし冬子が愛していたのは友人の杉浦でした。杉浦のモデルは、実際に筆子を取り合うことになった、松岡譲(ゆずる)です。当時、久米と筆子の恋路は大きな話題となったこともあり、この「破船」も好評を博しました。文学作品を発表することで失恋の嫉妬心や絶望を乗り越えようとする試みは、ダンテの「神曲」の時代から変わっていないのかもしれません。

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学生時代

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久米正雄、2作目の短編集です。「競漕(きょうそう)」や「受験生の手紙」、「復讐」などさまざまな作品が収められています。1918年に新潮社から出版され、以降多くの出版社から出ています。このなかでも、受験と恋に敗れて自殺する「受験生の手紙」は久米の代表作と言われています。また「競漕」は、夏目漱石からも称賛されたそうです。どれも短い作品ですので、久米作品を読むならこの作品から読むのがおすすめです。

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父の死

第4次「新思潮」の創刊号に掲載された作品です。久米自身の体験を元に執筆されています。

久米の父は尋常小学校の校長をしていましたが、ある日、小使いの不注意により学校が火事になってしまいます。厳格な「父」は火事を見つけると、御真影(※2)を守るために火事のなかに入っていこうとしますが、周りに止められます。学校は灰になり、御真影もなくなっていました。これに責任を感じた「父」は割腹自殺をします。駆けつけた父の友人が、傷跡を見て「さすがは武士の出だ、ちゃんと作法を心得ている」と称賛します。

この光景は当時7歳だった久米に強い影響を与えたと言われています。

※2、御真影(ごしんえい)とは、天皇陛下の写真のことです。

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1918年(大正7年)に、雑誌「文章世界」で発表された短編小説です。あらすじは次の通りです。

うだつの上がらない俳優・深井八輔(はちすけ)は、才能がないのか、舞台で動物役ばかりやらされています。そんな自分自身にうんざりしていたある日、息子が「上野動物園に行きたい」と言います。最初はためらう八輔でしたが、これも「天からの啓示」だと思い直し、動物園に向かうことにします。そこで偶然にも檻越しに一頭の虎に出会ったのです。その虎をじーっと観察していると、なんだか自分と虎が一体になった気がする八輔。以降、八輔は徹底的に虎の真似を始めます。

やがて舞台で虎の役が決まると、八輔は着ぐるみを被りながらも渾身の演技をします。舞台が終わり、全てを出し切った八輔に歩み寄る息子の反応とは・・・。

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まとめ

いかがでしたか?今回は久米正雄の作品の特徴とおすすめ作をご紹介しました。久米正雄の作品を読むと、ある種のロマンチシズムやダイナミズムを感じます。久米正雄の作品がたびたび映画やテレビドラマになったのも、作風が人の感情を動かす巧みな構成となっていたからかもしれません。すでに絶版になっていて買えない作品もあるかもしれませんが、青空文庫などで読めますので、機会があれば読んでみてください。

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>>久米正雄ってどんな人?その生涯は?芥川龍之介との仲や性格を物語るエピソードは?

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