出典:[amazon]ゴーリキーは存在したのか?
日本で夏目漱石(1867-1916)が活躍していた頃、ロシアではマクシム・ゴーリキー(1868-1936)が、革命家の文豪として社会主義リアリズムを創造していました。
「ゴーリキーの作品は題名からして重そうなので今までなんとなく避けてきた」という方もいるでしょう。
ゴーリキーはロシア文学界でも異端児的な存在なので、一風変わった内容、思想に拒否反応を起こす方がいてもおかしくはないのです。
今回はマクシム・ゴーリキーの作品の特徴、その評価について、代表作も含め、ご紹介してきます。
マクシム・ゴーリキーの作品の特徴及び評価
ゴーリキーの作品を読み解く前に、ゴーリキーという人物の出自を理解しておくことは大変重要です。
ゴーリキーが学校に行かず、高等な教育も受けていないこと、また貴族階級ではなく労働者階級の出であること、これらはゴーリキー作品に大きな影響を及ぼしています。
マクシム・ゴーリキーの作品の特徴
ゴーリキーの作品にはどれも革命への呼びかけ、革命への期待が込められています。
それはストレートに表現されているものもあれば、文脈に片鱗が読み取れるだけのものもあります。
屑拾いの極貧生活の中から、様々な職種に就き、労働者階級の人々、その生活を間近で見て育ったゴーリキーは、自身の経験を踏まえた作品作りがとても優れているのです。
そのため、資本主義社会における人間の悲惨な生活を語るだけではなく、人間の強い意志さえあれば幸福も自由も勝ち得ることができるといった内容のものが多いです。
マクシム・ゴーリキーの作品の評価
ゴーリキーはそれまでのロシアの文豪たちのような貴族階級もしくは中産階級の出ではありませんでした。労働者階級の出で、しかも貧困から小学校も1年しか通わず、以後生涯一度も学校というところに行かなかったのがゴーリキーです。
無学といっても過言ではないゴーリキーは、自分自身にあった文才だけでロシア文学界に名を馳せた強者だったのです。
しかし、時代は革命の音が聞こえる不穏な時代でもありました。
ロシアの未来を危惧してあちらこちらで革命の声、反革命の声が上がっていました。
革命派グループと深い関わりをもっていたゴーリキーは、瞬く間にレーニンの思想、革命の思想の虜になります。
学がないゆえの弊害なのでしょう、疑うことを知らないゴーリキーは一途なまでに革命精神を信じぬき、死ぬまで生涯を革命に捧げたのです。
それは、初めはレーニンに、そしてスターリンにも同じ忠誠を誓い、特にスターリン礼賛を頻繁に繰り返していたことにも見て取れます。
ゴーリキー作品は一般的にゴーリキー以前には知りえなかったロシア社会のリアルさを伝える価値ある作品だと称賛されています。
しかし、晩年のスターリン寄りの発言、礼賛は決して受け入れられるものではないと批判されることも多いです。
ゴーリキー作品は実はノーベル文学賞にノミネートされ、決選までいった経験もありました。
それだけ価値ある内容、文章表現がゴーリキー作品にはあるのです。
マクシム・ゴーリキーの代表作3選
ここでは、ゴーリキーの代表作を3つ厳選してご紹介していきます。
散文詩「海燕の歌」(1901)
ロシアでは、詩人というものは未来を予見することができる能力を持っていると信じられていました。
この「海燕の歌」はまさにプロレタリア革命を予感させる内容が盛り込まれており、プロレタリア革命の到来を予言した詩として長らく大絶賛されてきました。
ロシア国内に留まらず、東側諸国でも大絶賛されたこの詩は、ペレストロイカを迎えるまで、ソビエトの学校では国語の授業に教材として用いられていました。
短い詩なので、興味がある方はぜひ読んでみてください。
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戯曲「どん底」(1901-1902)
ゴーリキーの代名詞にもなっている「どん底」は戯曲なため、本としては少々読みづらいのが難点として挙げられます。
戯曲の読解は苦手という方は舞台鑑賞することをお勧めします。
「どん底」は文字通り生活のどん底に投げ出された人々の運命を示し、資本主義社会の罪悪の結果を見せつけた作品として知られています。
誰が主人公というわけでもなく、これといった筋があるというわけでもなく、どん底という吹き溜まりに集まってしまった人々がどのように考え、生活しているかが描き出されます。
お金が欲しいと喘ぎながらも、お金がないからどん底から這い上がれないという現実、別に罪を犯したわけでもないのに、どん底の人というだけで差別的な目で見られるという屈辱、それでもどん底にいる人々は歌と酒を楽しみに日々をサバイバルするといった内容になっています。
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長編小説「母」(1907)
この作品は、ゴーリキーがアメリカに滞在中に着手、執筆したものです。
社会主義リアリズム文学の誕生を告げる記念すべき作品として位置付けられています。
飲んだくれの夫と真面目な息子を持つごくごく普通の主婦が、革命派と反革命派のいざこざで家族を失ったことが転機となり、革命派に身を投じていくというストーリーです。
革命にまったく興味を示さなかった母が、息子を通じて革命の意志に目覚めることが描かれていますが、母親が洗脳されていく様が怖いという見方もあり、好き嫌いが分かれる作品でもあります。
しかし、ロシア革命を根本から理解しようとした時、当時の国民(特に労働者階級)の生の声を知るのは大変重要です。
ロシア革命が起き、なぜ人が資本主義ではなく社会主義に走ったのかを知りたいという方に特にお勧めしたい一作です。
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まとめ
ロシア社会にある極貧、貧民層、困窮する人々をリアルに再現することができたのは後にも先にもゴーリキーだけでしょう。
労働者階級に生まれ、幼年にして両親を亡くし、極貧の中で様々な仕事をしながら生き抜いてきたゴーリキーだからこそ書けた作品は、今なお高い評価を受け、読み継がれているのです。
ロシアの人々がどれほど苦しみ、革命を起こすに至ったかもうかがい知ることができる名作があるので、ロシアの歴史やロシア革命に興味関心がある方はぜひ一度ゴーリキー作品を読んでみることをお勧めします。
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